恋愛小説家による恋愛短歌。
行間を読むとはいうけど、本心を明かすつもりがない人の気持ちを読むのは、超能力がないかぎり限界がある。行間から出てきて欲しい。真心をくれ!
陥れる表現と、想いが上手く通じ合わないことで、短歌内で傷を増していく作中主体の本心。
外面と本心の分離を「行間」という言葉をつかって短歌に昇華にしたのが、とても秀逸と思いました。
行間に何かの行動が起こっているらしいので、10首でありながら見えない10首が別に存在する。
等身大の感受性のみずみずしい言葉と、運命や時空間を連想させるような言葉が織り交ぜられ不思議。
気に入った歌の感想。(※レビュアーの主観です)
「目覚めたら彼のベッドの上であれ! セルフ眠剤服用チャレンジ」
作者さま近況ノートで触れていたキャッチコピー歌。
なんとか運命を歪めてやろうって腕力と、介抱されたい、あるいは陥れられたいという方針をとる内気さのギャップが印象的。
「吸殻の忘れ物さえ捨てられず 遺骨に炭素は残留しない」
雰囲気変わって硬派。失恋してしばらく経過してから、死まで連想してしまったような歌。元気が良かった分、すごく可哀想になってしまった。
「吸殻の忘れ物さえ捨てられず 遺骨に炭素は残留しない」という一句に、私はそっと心を奪われました。
吸殻という、まさに生活の残骸のような存在――そこに残る微かな痕跡が、まるで過ぎ去った時間や人のぬくもりを語りかけてくるようで。そして一方、遺骨という静かな終着点には、炭素さえ残らないという無機質な現実。それはまるで「人の証」は本当に残るのかと、問いかけられているようにも感じられました。
触れられない“未練”や“悔い”が、日常の端々にそっと沈み込んでいて。理知と感情が交錯するこの作品の空気感が、読後もじんわりと胸に滲んで、しばらく離れませんでした。静かで、でも確かに生きている言葉たちですね。