アロハシャツ

 胡散臭いアロハシャツを2枚買ったよ。ゾゾタウンで、安くなってたからね。

 それに、もう、夏でしょ?


 君は太宰治の『葉』という短編を読んだことがあるだろうか? あるなら、話が早いのだけど、一応、説明。


 あの話は、戦後間もない頃の、夏の東京が舞台だったはずだ。

 主人公は、日々の暮らしにうんざりしていて、それでも生きなきゃいけないから、仕方なく、どうでもいいようなことをして時間を潰している。

 そこで彼は、突然、アロハシャツを買う。

 特に深い理由があるわけでもない。ただ、ふと気まぐれで、普段の自分なら絶対に選ばないような、派手な柄のアロハシャツを2枚、買ってしまう。


 で、買ったあと、家に帰って、一人でそのシャツを広げて、眺めながら、ひどく空しくなるんだよね。

 「なぜ私は、こんなシャツを買ってしまったのか」

 そう言って、どこにもやり場のない自己嫌悪に包まれる。

 けど、それでも次の日には、そのシャツを着て出かけてしまう。

 そうやって、生きてる。


 アロハシャツが浮いてるって? 鋭いね。全部嘘だ。僕の作ったホラ話なんだ。


 まあそうカッカするなよ。


 怒るならアロハシャツに怒ってくれ。僕が買った、胡散臭いアロハシャツに似合うように、嘘の話を書いているんだ。僕は、全然悪くないんだよ。

 ついでに言えば、今僕は、これを着ながら文章を書いている。青を基調とした、バカに派手なアロハシャツをね。

 


 最後に、もう一つ。『葉』って短編は本当に存在するんだ。よかったら、読んでみてね。


 <次回更新:気が向いたら>

 更新後記:

 人はなぜ、似合いもしないアロハシャツを買ってしまうのか?

 深く考えても無駄です。安かったから、それだけ。

 でも、「自分らしさ」とか「らしくないものへの憧れ」とか、そういうのを、たまにはアロハシャツが代弁してくれることもある──気がする。

 少なくとも、そう信じて着ています。今日も。ばかみたいに派手なやつを。

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火のないところで、まだ焦げている 悠木倫 @yukirin_wr

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