第33話 『音が止まる日』

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──突然、“音のない世界”に迷い込んでしまったとしたら、あなたはどうしますか?


「今回は、“団地全体から生活音が消える日がある”という、奇妙な体験談を紹介します」

「投稿者は在宅ワーカーの方。昼間、ふと異常な“静寂”に気づき、不気味な光景を目撃したそうです」


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【DM本文より】――


水島さん、こんにちは。


仕事柄、平日の昼間も家にいることが多くて、あるとき団地で変な体験をしました。


その日も自宅で作業していたんですが、ふと「音が何も聞こえない」ことに気づいたんです。


テレビの音も、隣の部屋の物音も、外の子供の声も、車の走行音も──一瞬で全部、消えてました。


時間が止まったような無音状態が続いて、怖くなって部屋を出てみたら、廊下の奥に“人”が立っていたんです。


白っぽい服を着ていて、でも“音がしない”んですよ。風もなく、動いてるのに、衣擦れも足音もしない。


視線を合わせたくなくて、すぐに部屋に戻りました。


あとで調べたら、同じ団地で“毎月決まった日に音が止まる”って話があるらしいです。


よかったら、調べてもらえませんか?


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【実地検証配信】


水島は、投稿のあった団地に向かい、事前に許可を得た上で複数のマイクを持ち込み、録音体制を整える。


「今、ちょうど昼前です。普通なら、生活音──掃除機やテレビ、子どもの声なんかが聞こえるはずなんですが……」


水島がマイクを切り替えながら、団地内を移動する。


「……妙ですね。エントランス付近までは音がしてたのに、ここに来た瞬間、急に静かになった」


階段をゆっくり上がりながら、音の変化を実況する。


「風も止んでる。録音機器で拾えてるかはわかりませんが……この無音、ちょっと異常です」


水島は立ち止まり、静かに声を発する。


「──誰か、いますか?」


返事はない。反響もない。


マイクのゲインを上げても、ノイズすら拾わない。


「……音が消えたというより、“何も発生していない”感じです。まるで世界がミュートになったみたい」


そのとき、廊下の先──暗がりの中に“人影”が現れる。


白っぽい服。動いているのに、まったく音がしない。


カメラがかすかにぶれ、水島が一歩だけ後退する。


「……いる、な。あれが……」


数秒の静寂。


だが、視線を合わせることなく、水島はカメラをそっと下げる。


「……すみません、今日はここまでにします。この団地、確かに“音”に異常があります」


水島は静かにその場を離れた。


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【後日談】


「調べてみたところ、“毎月決まった日に音が止まる団地”という都市伝説、実は全国に点在しているようです」


「一部の記録では、そうした日には“白い服を着た音のない人間が現れる”という共通点もあり、

古くは“音無様(おとなしさま)”という名称で呼ばれていた例もあるとか」


「何気ない日常が、突然“無”に包まれる──

そんな瞬間が、誰にでも訪れるのかもしれませんね」


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《動画コメントより(抜粋)》


👤shizukesa_suki

こんな静けさ、実際体験したらパニックになると思う……。見てるだけで背筋が寒くなった。


👤danchi_neko

団地住みだけど、たまに“音が遠い日”ってある。気のせいじゃなかったのかな……


👤無音マニア

ラストの「音を発してない世界」って表現、ゾワッとした。自然界って全部“音ありき”だから、消えたら怖い。


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