第32話 『魚が釣れない理由』
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──普段は魚が沢山つれるのに“一匹も釣れない日”、
そんな日は何かの異常が起きているかもしれません。
「今回は、ある渓流釣りの名所で起きた、ちょっと奇妙な体験を紹介します」
「投稿してくれたのは、地元に住むベテランの釣り師の方。数十年通っている谷で、“今までにない違和感”を感じたということです」
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【DM本文より】――
水島さん、こんにちは。渓流釣りが趣味で、地元の山によく入る者です。
釣りをしていて、ちょっと不気味な体験をしたので、よかったら聞いてください。
その日もいつもの谷で竿を出してたんですが──全然釣れなかったんです。
魚影はあるのに、ピクリとも動かない。
不思議に思って川の流れの先を目で追っていったら──白い服の人影のようなものが、水に膝まで浸かって立ってる。
いや、正確には“立ってる”んじゃなくて……
水の中で、クネクネと身体をねじるように揺らして、まるで踊っているように見えました。
急に寒気がして、逃げるように山を下りました。
あれが何だったのか調査してほしいです
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【実地検証配信】
水島は、投稿のあった渓流の谷筋に入り、慎重に川辺を進む。
「確かに、雰囲気が異常ですね……音が静かすぎる。川の音も、鳥の声も、風も……なんだか全部遠い」
ゆっくりと川辺に近づき、水面を覗き込む。
「……魚影が見えます。いますね、確かに」
水島は竿を垂らす。 数分待っても、まったく反応がない。
魚たちは微動だにせず、全員が“上流の一点”を見ている。
「おかしい……この距離なら一匹くらい食いついてもいいはずなのに」
水島が魚たちの視線を追う。
その先──浅瀬の先に、白い影のようなものが、水に浸かって揺れていた。
「……ちょっとズームします」
カメラが引き寄せる。
水の中で、膝まで濡れた白い人影が、ゆっくりと“クネクネと”身体を折り曲げるように動いている。
「……あれ、人間ですか? ……いや、なんか……違う……」
「背中……ない? なんだこれ……胴体が、溶けてるような……」
水島の声が震える。 その瞬間、マイクに拾われる「シュ……シュ……シュ……」という、草を擦るような音。
水島が数歩、無意識に後ずさる。
「……やばい。これ、動いたら……バレるやつだ……」
しばしの沈黙ののち、水島がゆっくり息を吐く音が入る。
カメラがわずかに揺れながら、視点がそっと水面から逸れていく。
「……今日はここまでにします。何かあってからじゃ遅いんで。ちょっと距離をとります」
水島は目を合わせないように、後ろを見ずに静かにその場を離れた。
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【後日談】
「あのあといろいろ調べてみたんですが……どうやら、“白い踊り子”って、日本の一部地域で伝承されてる怪異らしいです。
特徴は、“魚が一切騒がなくなるときに現れる”“踊るように身体をくねらせる”“背中がない”。
昔から、“釣れない渓流には、あれがいる”って言い伝えが、山間部を中心にあるそうで──」
「今回の映像と、奇妙な魚の動きがあまりにも一致していて……鳥肌が立ちました」
「“異常に静かな場所”って、やっぱり何かが“潜んでる”のかもしれませんね」
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《動画コメントより(抜粋)》
👤morino_henkei
魚が全員同じ方向向いてるのマジで鳥肌立った。自然ってたまに一斉に変になるよな
👤Shiro_no_ashi
あれ、人型じゃないよね? 骨格的に変すぎる。魚が逃げないの、やばいサイン
👤釣り人42年目
ガチ勢から言わせてもらうと、ああいう“動かない魚群”は確かに異常。水温でも群れ方でもない。
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