第32話 『魚が釣れない理由』

「異常事態調査室」登録者数:71,084人 → 73,110人(+2,026)

投稿動画『魚が釣れない理由』視聴数:111,309回


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


──普段は魚が沢山つれるのに“一匹も釣れない日”、

そんな日は何かの異常が起きているかもしれません。


「今回は、ある渓流釣りの名所で起きた、ちょっと奇妙な体験を紹介します」

「投稿してくれたのは、地元に住むベテランの釣り師の方。数十年通っている谷で、“今までにない違和感”を感じたということです」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【DM本文より】――


水島さん、こんにちは。渓流釣りが趣味で、地元の山によく入る者です。


釣りをしていて、ちょっと不気味な体験をしたので、よかったら聞いてください。


その日もいつもの谷で竿を出してたんですが──全然釣れなかったんです。

魚影はあるのに、ピクリとも動かない。


不思議に思って川の流れの先を目で追っていったら──白い服の人影のようなものが、水に膝まで浸かって立ってる。

いや、正確には“立ってる”んじゃなくて……


水の中で、クネクネと身体をねじるように揺らして、まるで踊っているように見えました。


急に寒気がして、逃げるように山を下りました。

あれが何だったのか調査してほしいです


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【実地検証配信】


水島は、投稿のあった渓流の谷筋に入り、慎重に川辺を進む。


「確かに、雰囲気が異常ですね……音が静かすぎる。川の音も、鳥の声も、風も……なんだか全部遠い」


ゆっくりと川辺に近づき、水面を覗き込む。


「……魚影が見えます。いますね、確かに」


水島は竿を垂らす。 数分待っても、まったく反応がない。

魚たちは微動だにせず、全員が“上流の一点”を見ている。


「おかしい……この距離なら一匹くらい食いついてもいいはずなのに」


水島が魚たちの視線を追う。


その先──浅瀬の先に、白い影のようなものが、水に浸かって揺れていた。


「……ちょっとズームします」


カメラが引き寄せる。

水の中で、膝まで濡れた白い人影が、ゆっくりと“クネクネと”身体を折り曲げるように動いている。


「……あれ、人間ですか? ……いや、なんか……違う……」


「背中……ない? なんだこれ……胴体が、溶けてるような……」


水島の声が震える。 その瞬間、マイクに拾われる「シュ……シュ……シュ……」という、草を擦るような音。


水島が数歩、無意識に後ずさる。


「……やばい。これ、動いたら……バレるやつだ……」


しばしの沈黙ののち、水島がゆっくり息を吐く音が入る。

カメラがわずかに揺れながら、視点がそっと水面から逸れていく。


「……今日はここまでにします。何かあってからじゃ遅いんで。ちょっと距離をとります」


水島は目を合わせないように、後ろを見ずに静かにその場を離れた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後日談】


「あのあといろいろ調べてみたんですが……どうやら、“白い踊り子”って、日本の一部地域で伝承されてる怪異らしいです。

特徴は、“魚が一切騒がなくなるときに現れる”“踊るように身体をくねらせる”“背中がない”。

昔から、“釣れない渓流には、あれがいる”って言い伝えが、山間部を中心にあるそうで──」


「今回の映像と、奇妙な魚の動きがあまりにも一致していて……鳥肌が立ちました」


「“異常に静かな場所”って、やっぱり何かが“潜んでる”のかもしれませんね」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


《動画コメントより(抜粋)》


👤morino_henkei

魚が全員同じ方向向いてるのマジで鳥肌立った。自然ってたまに一斉に変になるよな


👤Shiro_no_ashi

あれ、人型じゃないよね? 骨格的に変すぎる。魚が逃げないの、やばいサイン


👤釣り人42年目

ガチ勢から言わせてもらうと、ああいう“動かない魚群”は確かに異常。水温でも群れ方でもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る