第58話 ジャナー捜索

 ハイダラはジャナーの直接の部下で、カルサイの元を離れてザルカバーニに居着いてからは、ずっと組んできた相棒でもある。

 ハイダラは当然全幅の信頼をジャナーに寄せているし、ジャナーからも結構信頼されている……と、彼は感じているらしい。


 そのジャナーの行方がわからなくなった、という。


 ハイダラとジャナーは互いの居場所がわかるように対となる護符を持っていて、いざというときはこれで簡単な連絡を取り合える。

 今、その護符の変化が示すのは、ジャナーが何者かに襲われたこと、そして持ち主の手を離れたということ、だそうだ。


「これを話すのは、ジャナーには、怒られるかも。……だけど、こういうとき、助けてくれる人は、居ないから」


 自分一人では探す事も難しい、とハイダラは言う。

 しかし助けてくれる人がいないとは、これはまた、なんというか。

 わたしが考えていると、ユスラが口を開いた。


「管理部族の中ではあんまり大事にされてないってこと? 恨まれまくってるとか?」

「管理部族は、互いに、あまり関わらないんだ。それぞれが、必要に応じて、手を組んで動く」「自分を助けてくれるような人との関係を育んでこなかったってことね。そんなの、自業自得じゃない」

「それは、そうだね」


 ユスラの厳しい物言いに、ハイダラはゆったりと頷く。

 そんな素直に頷かれるとばつが悪かったか、ユスラは顔を曇らせて、ごめん、と謝った。

 もっとも、ハイダラは曖昧な顔をするだけで、あまり意味はわかってないようだけど。

 二人がそんなやりとりをしているうちに、わたしは方針を固めた。あとは行動に移すだけだ。


「ともかくジャナーを探したいのね。一緒に行きましょう」

「……? ミリアムは、手を貸してくれるの?」

「興味あるもの」


 それより、他に誰を連れて行こうかしら。ミシュアか、ユスラか。どちらも鉄火場になりかねない場所に連れて行っても良いものか悩む。サルアケッタの時は距離を置けば良かったからともかく……。


「そういうことならわたしの出番かな。一緒に行くよ」


 声を上げたのはアカリだった。わたしは悩んで腕を組む。


「そうしたいところだけど、キャラバンの安全や流通を保証していたのがジャナーなのよね。不在になった今、わたしたちがどっちもキャラバン空けて大丈夫かしら?」

「守りは敷いてあるけど……例の呪術師はどうなの?」

「ハティムは自分の住処で療養中。ビシャラに呪いを受けたらしいの」


 それを聞いてユスラが怪訝そうな顔をした。


「解いてもらうのもビシャラの呪いじゃなかったっけ。大丈夫なの、そいつ」

「大丈夫じゃないかしら。それはともかく、今は当てにできないわ」


 わたしが考えていると、ミシュアが口を開いた。


「二人は好きに動いてください。元々、二人が不在でもキャラバンが回るようには考えています」

「あらそう? なら頼りにするわね。みんな残していくから、あなたの采配で好きにやってちょうだい」

「……普通ならそうは言いながら、あれやこれやと条件をつけるものですが。あなたの場合本当に丸投げするんでしょうね」


 ミシュアは今更「ちょっと早まったか?」とか言ってるけど、多分どうあれこういうことになった気がする。自分から言いだしてきたことが高得点だったので前倒しになったけど。


「決まりね。早速動きましょう。ハイダラ、探す当てはあるの?」

「うん。まずは、護符のある所に、行く」


 わたしたちはハイダラに先導される形で移動を始める。あまりよく知らない街並みを奥へ奥へと進み、人通りのない路地を幾つも曲がって、ハティムが潜んでいたような何かの店の前に着いた。

 ハイダラは何も言わずに店の扉を蹴り開けた。

 内部は無人。何かの雑貨が並ぶ店内は、しかし、ひどく荒れた様子だ。横倒しになった机や棚、ほのかに漂う焦げ臭さ。争いの跡。

 ハイダラは部屋の片隅に落ちていた木片を拾う。異なる色の石が二つはめ込まれた、小さな護符。これが居場所を察知するためのものなのだろう。


「追いかける手立てはある?」


 ハイダラは首を振った。あとはしらみつぶし、らしい。

 ならこちらで考えて見よう。幸い、違和感はある。

 ジャナーがここに来たことは護符があることから明らかとして、何故連れ去られたのか。そして何故護符を置いていったのか。隠し持っていた方が追跡できて価値が高いのに。偶然落としたとかでないならば、この状況が指すものは……。


「罠ね」

「罠だねぇ」


 わたしとアカリが同時にこぼすと、店の外から窓を突き破って何かが放り込まれてきた。

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魔法使いの拾遺集 望郷のセルイーラ げこ @kuromu-0966

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