第06話 聖女戦①

 天使の降臨と同時に、ケイの耳にキセキ通信が飛び込んでくる。

 戦いの始まりを感知して、宗教放送のチャンネルが自動開設された。


 競技レベルの聖女戦は、すべて智天使ケルヴィムのカメラアイで撮影され、キセキ通信によって全教区に届けられる。

 もっとも愛される宗教儀式ミサであり娯楽エンタメだ。

 それには実況と解説がつく。


『ハロゥ! 見習い聖女の練習試合から、トップ聖女の頂上決戦まで、競技レベルの聖女戦を幅広くお届けする聖女チャンネルの時間だよ! 実況のニコと!』

『解説のツベです』


 ケイの視界の端――カメラで切り取られた小窓の左右に、2体のデフォルメされた天使と悪魔のアバターが出現していた。


 コウモリの羽を持ち、意地悪そうな笑みを浮かべた悪魔がニコで、純白の翼を備え、清らかなオーラをまとった天使がツベだ。


『はじめての人もいるかもだから、まず聖女戦について説明するね? 天使に乗り、戦闘用キセキで歌と踊りをう聖祭――それが聖女戦!』


 そう言って、ニコのアバターがくるっと一回転する。

 その動きを見てツベが軽く首肯した。


『ベーシックな対戦形式は一対一ワン・オン・ワン。歌い手と踊り手が戦います』


 映像に、ケイとルカの姿が映し出される。

 アカデミーの体育館には、巨大なキセキの映像装置が設置されているため、ケイも客観的に自分たちの姿を見ることができた。

 悪魔のニコが、ケイたちを指差しながら笑ってみせる。


『多対多、サドンデス、バトルロワイアルみたいなルールもあるけどねー』

『こらニコ、一気に全部説明するとこんがらがるでしょう?』

『てへぺろー』


『まず基本。持ち点は20点。歌い手は歌と弾幕を、踊り手は踊りと回避術を披露します。一歌唱終了時点で、持ち点の多い方が勝者です』


熾天使セラフィムは音響、智天使は配信、座天使スローンズは移動、力天使デュナミスは弾幕担当! 歌い手には全種の天使と、フィールドの3つの遊星ゆうせいと胸の星。踊り手には、座天使と胸の一つ星が与えられる!』


『力天使は、実体のない光弾を放ちます。ひとつひとつが星への当たり判定を持ち、これに踊り手の星が接触すると踊り手は5点減点。逆に踊り手が、歌い手の星に体、または座天使を接触させると、歌い手は5点失います』


『その以外にも、点の増減に関する要素として、技術点TES演技構成点PCSから減点ディダクションを引いた――』

『ニコ……』


『ごめんごめん、つい……要するに、歌と踊りのクオリティでも加減点されるってわけ!』


『繰り返しになりますが、歌い手は、踊り手の星を攻撃し、自分の星を守るために、歌いながら弾幕を作り出します。踊り手は踊り、座天使で弾幕を避け、歌い手とフィールドの星を狙います』



『天使と共に星を巡り、聖女が歌い踊る――そこが、聖女戦の見どころだよ!』



『細かいルールはほかにもたくさんありますが、基本はこんなところですね?』

『だね! あとは戦いの中で説明していこうか』

 

 ケイとルカが座天使の上で構える。

 すでに戦う準備は整っている。


『今回の聖女戦はアカデミー体育館、空戦メインの聖女戦に対応した、天井高60mを誇る聖都最大級の屋内競技場からお届け! ここから新たな未来モンスターが生まれるのだ!』


『実際、多くのトップ聖女はアカデミー出身。主の隣にまします方々は、在学中から多くの信者ファンを獲得します』


 これからは一挙手一投足が、何千何万の人の目と、神の目にさらされる。

 その緊張と興奮から、ケイは小さくつばを飲み込んだ。


『アカデミーの生徒は、あなたの未来の最推し聖女になる原石かもしれないってこと!』


『生徒たちの聖女戦は、完成されたトップ聖女の聖女戦とは違う輝きを放ちます』


『早速、今回聖女戦をプレイする聖女について、オーズ様に神託オラクルを仰ごうか?』


 二人のアバターがそれぞれ、胸の前で両手の指をあわせて輪を作る。

 天輪教の祈りにより、神託という形で、照会者の保有する権限に応じた情報がもたらされる。


『――はい、一人はルカ・アリスベータ。元七聖女、ラクシャーサ・アリスベータの実子、アカデミー一学年主席、聖女ランキング第101位。在学中から結果を出しているスーパールーキーです』


『なになに――アリスベータの女性は代々アカデミーに在籍し、彼女の母親も、祖母も、祖母の祖母もトップ聖女――ってプロフィールの圧すごいな……生粋のサラブレットだ』


『“聖女の名門、アリスベータ”と言えば、知らない方のほうが少ないのではないでしょうか? 対するケイ=ノービス。彼女は――彼女じゃない? ……え? 嘘……。お、男⁉』


『珍しくツベ君が取り乱している。こら~、お仕事中だぞ~?』

『す、すみません。いや、しかし、目を疑うような情報で……』


『オーズ様の神託は絶対! これはまごうことなき真実! みなさんご傾聴ください。ケイ=ノービスはなんと、男の子だ! 男女による聖女戦が果たして成立するのか⁈』


『公共用キセキは性別を問いませんが、戦闘用キセキは女性の特権です』

『でも、もう開戦してるよ?』

『つまりオーズ様が、聖女戦に不足ないと認めた、ということです。そのほかの情報は皆無……ケイ=ノービス、彼はいったい何者なのでしょうか?』


『とにもかくにも聖女戦! 男女、陰陽、白黒、勝敗――一切合切がオーズ様の名の下につまびらかにされるのだ!』


『1千万年を超える輪暦史上初の男女による聖女戦! ただの一戦ではない。まさしく世紀の一戦となることでしょう!』

『この祈りプレイが、我らの天輪をそらに押し上げる新たな一翼とならん!』


『それでは皆さん、ご唱和ください。レディ――』


 全教区にいる聖女の信者ファンたちが、世界が、その言葉を待っている。


『アセンション!』


 天使と悪魔が声を揃えて、聖女戦開始を意味する決まり文句を口にする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月10日 18:30
2026年1月11日 18:30
2026年1月12日 18:30

終末円環世界イチオシの聖女 ki-you(きゆ) @kiyou1234

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ