第03話 輪を乱すもの


 ケイは先頭車両に向かう道中、各車両にいたテロリストたちを素早く制圧していった。


 戦闘用キセキで奇襲し、抵抗するいとますら与えず、次々と沈黙させる。

 

 そうして先頭車両にたどり着いた。


 キセキで稼働する自動扉が開く。


 そこには、気絶したキ車の車掌と、漆黒のワンピースドレスを着た女が立っていた。

 女が、ゆっくりと振り返る。


 その顔は、他のテロリストと同様、後頭部までおおう漆黒のフルフェイスマスクに隠されていた。


「あら、あなたは――?」


 問いかけには耳を貸さず、ケイはすぐさま接近し、掌底を放つ。

 戦闘用キセキの身体強化を乗せた一撃だ。


 それを仮面の女は細い右腕一本で難なく受けとめた。

 彼女の漆黒のドレスが淡く光っている。

 正六角形の群生光だ。


「――ずいぶん、乱暴なあいさつですね?」


 彼女の声は不自然に野太く、ザラザラとして、耳障りだった。

 おおよそ、人間が自然に出す声からは程遠い。

 おそらく、被り物に声を変える機能でも付いているのだろう。


「どうしてテロなんか!」

「大義のためです」


 ケイは目にもとまらぬ速さで掌底を連打するが、女は右腕一本で受け流していく。

 そしておもむろに、ケイの胸に仮面の女の左手が添えられた。

 次の瞬間、ケイの体が吹き飛び、壁に当たってバウンドした。


「つ――……つよい……」


 一回の攻撃の応酬で、相手の実力を悟る。

 美しさすら感じる一撃だった。

 発勁はっけいに似た打撃を、ノーモーションで叩きこんできた。


 胸パッドがなければ死んでいたかもしれない。


 華奢な見た目に反する怪力は、身体能力に優れる聖女の特徴そのものだ。


「まさか……本物の聖女?」


 仮面の女は、手を握ったり開いたりしていた。


「この感触……あなた、男ですね?」


 胸に触れたほんの一瞬で、女はケイの性別を看破かんぱしてみせた。


「主の制約があるというのに……なぜ戦闘用キセキが使えるのですか?」

「なんで、聖女がテロリストなんか!」


 ケイは、仮面の女の質問を無視して質問し返した。

 仮面の女は、気分を害したようにため息をついた。


「わたくしは恐怖で主張する者テロリストではなく、信仰に奉仕する者アコライトです」


 彼女の芝居じみた大仰な態度は崩れなかった。

 ケイをいっさい脅威に感じていないのだ。


「仲間はやられてしまいましたか……わたくしだけでも、計画は進められますが……」


 仮面の女がひとり言をつぶやいている間にも、神速の攻防は続いている。

 優劣は明らかだ。仮面の女は独白するような余力を残している。


「アカデミーに行くんだ! 邪魔しないで!」

「聖女養成学校に、男のあなたが? 観光ですか?」



「そこで、ボクは聖女になる!」



 一瞬、仮面の動きが止まった。

 その頬にケイの掌底がクリーンヒットする。


 仮面に小さなひびが入った。


「あ……あなた、男でしょう⁉」

「だからなに?」

「アカデミーは女学校、聖女は女性がなるものです!」


 肉弾戦はケイの劣勢が続いている。

 しかし動揺しているのは仮面の女の方だった。


「天輪教の聖典には『男は聖女になれない』なんて書かれてなかったよ!」

「それは……そうですが……しかし…………頭は大丈夫ですか?」


テロリストあんたにだけは言われたくないよ。それに……」

「それに?」


 ケイは口の端から血を流しながら両手でダブルピースしてみせる。



「ボクはツヨカワイイから、たぶん大丈夫!」



 仮面の女の発勁はしっかり効いている。

 それでも、膝は折らない。

 ケイは全力で、強がっていた。


「ふっ――――」


 一拍置いて、ひび割れた仮面の裏から、抑えきれない大爆笑があふれ出した。


 同時に女の全身から、凄まじい輝度きどの光がほとばしる。


 その輝きは背後で光輪ハイロゥとなり、更に強さを増していった。


 トップ聖女に勝るとも劣らない――いや、もしかするとそれ以上の――七聖女並のキセキだ。



「オーズ様! これもあなた様の差し金ですか? わたくしにまた輝きを見よと! 彼を導けと! そう仰るのですか⁈ オーズ様――‼」



 仮面の女は両腕を頭上にかざし、神の名を叫ぶ。

 喜ぶように、悲しむように。

 そして、おもむろに先頭車両と客車の接続部に飛び移り、ケイを指差した。


「――聖界せいかいいただきはどんな山よりも高い。あなたに登りきれますか?」

「男に二言はない」


「その意気やよし。わたくしも元とはいえ、聖女同士戦うのに歌も踊りもないのは形無かたなし……今日は退きましょう」


 仮面の女は接続部にあった非常扉を蹴り開けた。

 ごうごうと風が吹き込み、二人の髪を大きく揺らす。


「結局、何がしたかったのさ?」

「ヒ・ミ・ツ、です」


 もったいぶるように言い、仮面の口元に人差し指を当ててしなを作る。


「えっと…………?」


 ケイは反応に困っていた。

 とっくの昔に流行遅れになった仕草を、ウケ狙いで披露したときのような、しらけた空気だった。

 その仕草の意味を知らなければ、首を傾げるしかない。


「コホン……去る前に、あなたのお名前を聞かせてもらえますか?」


 わざとらしく咳払いをしてから、何事もなかったかのように仮面は姿勢を正した。

 何だったんだ、今のは……。


「……人に名前を聞くなら、まず自分から名乗りなよ?」

「ナマイキですね。立派な聖女になるために勝気さは必要ですが、慎み深さはもっと必要ですよ?」

「そっちよりよっぽど慎んでるよ!」



「しからば名乗りましょう。わたくしはサークルクラッシャー。をもってとうとしとすために、みだすもの……」



「どうせ偽名でしょ?」


「しかし名乗りましたよ? 気軽に、サークラちゃんと呼んでください」

「なんだかなぁ……」


 とぼけた言動は、どこか憎めない大物感があった。

 ケイは警戒を緩めないように注意しながら、姿勢を正す。


「ボクはケイ=ノービス。近い将来、トップ聖女になる男だ!」


 それを聞いたサークルクラッシャーは呵呵大笑かかたいしょうする。


「――嗚呼ああ、本当に今日はき日です。あなたが聖女になるとしたら……それはわたくしも望むところ……再会を楽しみにしていますよ、ケイ=ノービス――」


 そう言い残し、サークルクラッシャーは戦闘用キセキを使って、走るキ車から飛び降りていった。



「いや、もう二度と会いたくないんだけど……」



 めちゃくちゃになった車内で、ケイは頭をかいた。

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