クジラ
隣乃となり
鯨
私の人生は鯨の爆発を兼ねている。
おかしなはなし。けれどもそれについて、私は一度だって疑うことをしなかった。理由は単純。私が今よりもずっと細胞らしく生きていた頃、母さんに毎日のように言い聞かせてもらっていたからである。いや。「ように」なんてものではなく、本当に毎日。毎時間。
若くして安定した職を捨て、手相占いに人生を賭けたクレイジー・マザーだった母さんの言葉は、私を含んだ全生命への祝福であった。私はこの世に生まれ落ちるそのときまで、自分がなにか特別な存在であると思わされていた。神。神。神。あるいはそれに似たなにかによる加護。てっきり私だけのものだと思っていた。
しかし、なんだこのザマは。
目の前には乾麺が散らばり、私を見事なまでに嘲笑っている。煙草もろくに吸えやしない。未読メッセージは五十四件。アナウンサー曰く、どこかで鯨が座礁したんだと。お前もそうだったのかい、といずれ爆ぜ、血の雨を降らせるであろう鯨に思いを馳せる。何もかもが厭になって仕方がなかったのかい。しかしそこで、いや、と思う。裏切る。私は裏切るぞ、鯨。私にはまだ希望があった。
赤ちゃんのおむつ替えはできるということに、つい二日前、気づいたばかりなのである。
クジラ 隣乃となり @mizunoyurei
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