現在、毎回神企画を主催してくださることでお馴染みの祐里さんによる『祐里を騙せ! 文章ブラインドテイスティング』(通称:文章BT)という楽しすぎる企画が進行中です。もちろん私も参加しております。
企画概要:https://kakuyomu.jp/users/yukie_miumiu/news/2912051600984025837
詳しくは上の企画概要を読んでいただければと思いますが、簡単に言うと、参加者たちが匿名で2000~3000文字の小説を書き、それを読んで皆でワイワイし、祐里さんに推測を披露していただくといったイベントになっています(たぶんあってる)。参加表明していない方でも楽しめる素敵な企画なので、ぜひ概要を読んでみてください!
今は「皆でその2000~3000文字の小説を読んで、誰が書いたものかを各々推測する」期間です。
でも、誰が書いた文章かを何の資料もなく当てるなんて不可能に近いですよね。なので、参加者たちは参加表明の際に推測の資料となる「見本作品」をひとつ掲示するんです。
今回は、その見本作品をすべて読み終えたので、ちょっぴり今更感はありますが、感想と分析のようなものを書いていきたいと思います。(見本作品は下のリンクから読むことができます)
※これから書く感想は見本作品のネタバレを含みます。
『祐里を騙せ! 文章ブラインドテイスティング』参加者&見本作品一覧
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1pAyZ4FkILrYswWIoox7v8P2D8TTgYsvvP87QQpNSkws/edit?gid=0#gid=0
● 藪医者(天川さん)
不思議な物語。淡々とした語り口ながらどこかふわふわしたファンタジー感もあり、とても素敵な作品だと思います。専門的な知識は入れ方が不自然だとノイズになってしまうと思うのですが、この作品は非常にナチュラルで読みやすかったです。そして何より、読後感がすごく良かった……。
セリフが小説らしく、かつ自然で溶け込んでいるように感じました。比較的落ち着いた、丁寧で繊細な文章を書くのが得意な方と見ました!
● 狂気の男 ~薬物ビルダー篠崎誠司の決意~(小田島匠さん)
小田島さんの作品は恋愛ものしか拝読したことがなかったので、このようなスポコンもの(であってるのでしょうか)は初めてでした。いやー、面白い! 知らない世界のことが書かれているのに、読んでいる間一度も置いて行かれることなく没頭することができました。専門用語の解説もしっかりされていて、とても読者に親切な作品です。
小田島さんの作品は全体的に登場人物がすごく魅力的なんですよね。それも登場する人たち全員が、なんですよ。
● 青山椒はカラメルようでまだ(隣乃となり)
キモい校長が登場する、トンチキタイトルの自作です。侘び寂びや情緒を文章に練りこむことを苦手とし、勢いで押そうとする傾向があるように思えます。若さ、青さを存分に生かした畳み掛けはもはや芸術の域ですね。最近ははじめとおわりの一文を何よりも重視しています。推測の際には最初と最後の一文、全体的な余裕のなさ、奇妙な比喩に注目してみてください。なんだか自虐めいてしまいましたが私は私の文章が大好きです。
● Throw you to the lion(s)(長尾たぐいさん)
この作品は前に一度読んだことがありました。改めて、良すぎる作品。まず長尾さんの作品ってタイトルから良いんですよ。センスがばっちばちに伝わってきます。
そしてすんごい個人的なんですけれども、わたし、長尾さんの書く男性キャラが大好きなんです。なので匿名の作品にも「(特に私に刺さる)魅力的な男性キャラが登場する」に一票……! あとはどの作品からも博識さが感じられる作者さんですから、そういうところにも注目していきたいです。でもどんなテイストの作品でも見事に書き切ってきそうな感じもするんだよなぁ……。
● 銀の金魚と碧い指輪(ハルさん)
いい話だ~……。希望しかないラストがとても温かくて良かったです。良い意味であくどさのない文章だと思いました。しかし題材は「金魚に恋をする」という比較的特殊なもので、ただの恋愛小説で終わらない雰囲気があります。なんだか読んでいてドキドキするのは何故……!
今回はハッピーエンドの恋愛ものでしたが、さらっとプロフィールを拝見した感じ何でも書けるタイプの方なので、どう来るのか非常に楽しみです。
● 緑色と桜色。(豆ははこさん)
あまりに繊細で、触れたら汚して壊してしまいそう。とにかく美しい……。美しすぎて涙が出そうになります。どこか寂しくもあるけど、柔らかくてぬくくて。心情の描写がこんなにも切なくて、綺麗なことがありますか。いろは歌じゃないですけれど、日本語の美しさというか、そういう根源的な優美さを文章から感じます。
また、読点の使い方が印象的でした。思わず口に出して読みたくなるリズムの良さは、絶妙な読点の位置や数ゆえなのだなと納得しました。うーん、匿名の作品でも同じように読点を使ってらっしゃるんですかねぇ。もしそうでないとしても、感情の機微を綴るのがとてつもなくお上手だと感じたので、その路線で来るのでは……!? という予想です。
● 追憶の雨(大隅 スミヲさん)
上質なサスペンス小説です。文章は比較的硬めで、ストーリーと文体がマッチしていてとても読みやすかったです。物語全体に漂う重苦しい雰囲気がとても好みでした。作中で、主人公の叔父が台風が来ているにも拘わらず田んぼを見に行くと言った場面、物語の狂気が頂きに達する感覚に、戦慄すると同時に痺れました。
匿名での作品も重厚なテイストのものなのかなと思いましたが、なんとなくペンネームからして面白そうな方なので、逆に奇天烈めな作品で来るかもしれないですね。
● 翼を折られた天使と鏡に映る君(鴻上ヒロさん)
世界観が非常に独創的で面白かったです。ファンタジーはやはり設定や作りこみが肝心だと思いますが、この作品は世界観にしっかりとした奥行きを感じました。ファンタジー作品を書こうとするとやはり取って付けたような平面的な設定になってしまったりすることも多いので(現に私がそうでした)、きちんと作りこまれているからこそ違和感のない、良い意味でリアルな作品で、読んでいてとても楽しかったです。ファンタジーで来るんでしょうかね……。この完成度の高さだと他ジャンルも読んでみたくなります。
● 百八つ墓村(きょうじゅさん)
な、なんだこれ。
もう出だしから面白いのが確定していて最高です。そしてやっぱり面白かったです。タイトルから内容当てられる人、多分いませんよね。私が下手にこういう作品です、と言うよりも、とりあえず読んでもらったほうがいいのでは……と思ってしまいました。一刻も早くこの空気感を味わってほしいです。ボケとツッコミにあまりにもぬるっと移行しており、テクい……。匿名の作品で何を書いてくるのか全く見当がつかないです。
● ホンジュラスのチョルテカ屋にはマチェットが売られている (鷹仁さん)
タイトルにあるカタカナの意味が何一つ分からず、全部調べてから読みました。
読んで、ああ、これは鷹さんの新たな最高傑作なんじゃないかなぁ、と思いました。ダジャレはいつも通りハイセンスであるがゆえに思わず「いや、う、上手いな……」と唸ってしまいますし、ハードボイルドな登場人物の言動も魅力的です。安定の飯テロもあり、知らない食べ物を美味しそうに書く手腕には、今回も脱帽。
タイトルだけ見てぶっ飛んだ話かと思ったら、最終的に涙腺を刺激されてしまいました。こんなにも笑えてかっこよくて切ない小説を書けるのは、鷹さんくらいだと私は勝手に思っております。
匿名の作品は本人曰く「鷹仁の鷹仁抜きみたいな話」だそうです。それはもう、わからないじゃないですか……。
● 金魚すくい(夜市川 鞠さん)
綺麗で、あたたかくて、恋という言葉がよく似合う作品だと感じました。
個人的にすごく好みです、と書こうとして、でもこの作品はきっと皆好きだよなあ、とニヤニヤしてしまいました。主人公、曽祖母、ハルさん、和彦さん、そして、金魚も。皆小説の中だけの生命であるはずなのに、肉体を感じて、声を感じて、体温を、こころを感じました。みずみずしい文体が、登場人物たちに命を吹き込んでいるのだと思います。人間の心の動きや温かみが繊細に描かれていて、本当に良かったです。
● 黄色い風船とスカート(島本 葉さん)
とても読みやすく、読後感が爽やかでした。主人公は少女であり、以前のように自由に動けない自分の身体に対する不安が拭えなかったり、木に引っかかっている風船を見て、自分と重ねてしまい悲観的になってしまったりする様子が丁寧に表現されています。が、「五センチか」という主人公のつぶやきが、極めてナチュラルに医師の説明という回想に繋がっているなど、ところどころ作者様の巧さを感じました。
● のろまのトント(秋犬さん)
実はこの作品、過去に私の企画に書き下ろしていただいたものなんです(自慢)。
「オム・ファタール」というテーマで童話調に書き上げられる方がいらっしゃるんだ、と驚いたのを覚えています。アイデアを含め、これほどの作品をゼロから作っていく作業に思いを馳せると、本当に気が遠くなります。ルセローが逞しく、聡くなっていく描写は読んでいてとてもわくわくしました。
この作品は童話的でしたが、この方、おそらくなんでも書けますよね~!?
● 黒冬飴(とるてたたんさん)
一文一文のリズムの良さ、潔さが現代らしく、淡々とした文体で高校生の心情が非常に解像度高く綴られています。私もいま高校生ですから、初めは少し斜に構えていても、いざ青春を味わってしまうといとも簡単に懐柔されてしまう感覚、凄くわかります。明るすぎず暗すぎず、軟らかすぎず硬すぎない独特な文体が特徴で、それが魅力のひとつだと感じました。ラストの、どこか緊張感のある雰囲気も良い……!
● シューティングスターマイン(一畳一間さん)
ぶっ刺さりました。シニカルな語り口、ワードセンス、爽やかなラスト。何から何まで良かったです。読む痛快ですよ、これは。
「アタシ」の一人称視点で進んでいく物語なのですが、キレキレながらどこか切なくもある、しかしやはり気持ちがいいくらいの自虐が散りばめられていて最高です。センスが滲んでいるどころの話じゃないです。読みながらずっと、くぅ~って唸って唸って唸りまくっていました。そして、花火の閃きの鮮やかさや眩しさを脳味噌にダイレクトに叩き込んでくる情景描写もまた圧巻です。
● 薔薇の遺灰(dedeさん)
初読のときはなんとか堪えることができたのですが、二周目、無理でした。泣きました。
状況をまだよく理解できていないために無邪気に振る舞うことができる妹と、甘えられる人もいない中、両親を失った悲しみを自分一人で抱え込んでいる主人公の対比に胸が痛みました。まだ主人公も小学生なのに、妹には家事をさせず自分だけで全うしようとするさまが健気すぎて……😭
主人公は自分一人だけですべて抱え込んでいましたが、叔母もまたそうでした。叔母が主人公が作った卵焼きを食べる場面で、これは主人公と妹の兄妹だけでなく、主人公の父と叔母の兄妹の物語でもあるのだということに気が付き、涙が出ました。塞ぎ込んでいた二人の間の壁がそっと崩れ、お互いにひとりきりを脱することができる、すごく大好きなシーンです。
読後感もとてもあたたかいです。
本当に、素敵な作品しかなかったですね! 作風や文体を分析しようと意気込んで読んだのに、いつの間にか物語に搦め捕られていて、純粋に読むことを楽しんでいました。また後ほど匿名の作品のふわっとした感想も書こうと思っているので、まずは読んできます。