探偵先生失踪事件


 探偵先生の置き手紙があった。


〈K坂のとある料亭にて会合がある。邪魔しに来るな、部屋を片付けておけ〉


 いつものように乱暴身勝手な先生の置き手紙に、私は「はいはい」と一人うなずくと、胸ポケットに大事にしまって、ほうきを手に取った。


 私は探偵先生の書く推理小説のファンだった。それがどういう縁だったか、いつの間にか事務所住み込みの助手となっていた。しかも今では小説の原稿を清書するのが私の役割で、読者でもファンでもなくなってしまってさびしいこの頃。


 探偵先生のデスクはなにも置いてなくて綺麗だが、事務所はホコリが溜まりやすく、こうして定期的に掃除をしなければならない。ほうきで掃いていると、電話が鳴った。


〈K坂の○○屋のものですが、先生はいついらっしゃいますか?〉


 その電話が、探偵先生失踪事件はじまりの合図だった。


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それは詩あるいは掌編 三十三さとみ @satomi_bunggirl

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