エピローグ:静かな夜

 朝は来た。

 けれど、空は青くなかった。

 ビルの隙間にかすかに射し込む光は、灰色に濁っていた。

 人々は歩いていた。スマホを見て、足元だけを見て。

 彼らは知らなかった。

 この街のどこかで、ひとつの夜が終わったことを。


 俺はその朝を見ていた。

 高い屋上の縁から、足を投げ出して。

 煙草の煙が風に流れ、空へ溶けていく。


 「どうだ、ジョナサン。人間ってやつは、まだ好きか?」


 ナイトの声がした。

 俺は答えなかった。

 もう、問いに答える必要はなかった。

 俺とナイトの間に境界はなくなっていた。


 正義とは何か。

 人間とは何か。

 闇とは、そして救いとは。


 もうそんな言葉を口にすることはない。

 ただ夜になれば歩き出し、

 闇の中で血の匂いを嗅ぎつける。


 獣でもなく、人でもなく。

 俺はその両方だ。


 やがて夜がまたやって来る。

 そして、そのたびに誰かが、

 この都市の片隅で**“名もなき男”の影**を目撃するだろう。


 その名を誰も知らない。

 その顔を誰も覚えていない。

 ただ、彼がいたことだけが、

 この街の闇を少しだけ、静かにしている。



 “夜を歩く男”は、今もどこかで歩いている。

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夜を歩く男(The Man Who Walks at Night) S.HAYA @spawnhaya

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