七夕に思う

クライングフリーマン

七夕

 中学生になったばかりの頃だった。

 私は、久々の再会にワクワクしていた。

 従姉は、私の実の姉より1つ歳上、即ち、3つ歳上だった。

 従姉は、父の姉の娘で、兄が2人いた。

 従兄達とも仲が良かったが、従姉とは、特に仲が良かった。

 従姉は、弟が欲しかったのだ。

 だから、弟のように接し、私を下の名前で呼んだ。

 前に会った時は、母の故郷だった。

 母の兄の娘、詰まり、母方の従姉ともすぐ仲良くなった。

 あの時も夏だった。

 皆で、近所の河原に泳ぎに行った。

 私は所謂『かなづち』で、泳げず、ひたすらアメンボやゲンゴロウと遊んでいた。

 従姉は、胸が少し成長していた。

 まぶしかった。


 さて、当家に来た従姉と私達は、浴衣に着替えて夜店に繰り出した。

 盆踊りに合せて、屋台が出ていた。

 盆踊りは街に寄って違う。

 それは、『音頭取り』の都合、音頭取りのスケジュールの都合だと、若い頃『音頭取り』をしたことのある叔父が言っていた。

 従姉は、『夏休み』と言う、スケジュールで合流出来たのだ。

 その日は、『月遅れの七夕』だった。即ち、八月七日の夜だった。

 夜店では、笹を用意し、短冊を売っていた。

 私達は、何かを短冊に書いて、笹に吊した。

 何を書いたか、さっぱり思い出せない。

 だが、一歩オトナに近づいた従姉がまぶしかった。

 手先が器用で、ナイフで鉛筆をよく削って貰った。

 削り終るまで、ずっと見ていた。

 まだ、シャープペンシルも鉛筆削り器も一般的で無かった頃だった。


 ハスキーな声で、そばかすのある従姉の声を聴いたのは、それが最後だった。


 数年後、従姉は交通事故で亡くなった。

 夜中、伯母から電話があったのだ。

 祖母は、途方に暮れていた。


 葬式は、父と母だけで行った、と思う。

 店を滅多に休まないで営業していたが、臨時休業する以外無かった。

 お客さんに、ひたすら姉が説明して謝っていた。


 従姉は、親友の喧嘩の巻き添えで亡くなった。

 親友と彼氏の仲裁に入り、彼氏は運転を誤り、田んぼに突っ込んだ。

 他に交通手段も無く、夜中だった。

 彼氏は、従姉の親友に、『頭丸めて』謝罪に行った。

 婚約は廃棄、当然だった。


 従姉はまだ19歳だった。

 19歳で生涯を終えた。

 従姉の『下の兄』は、がんで亡くなった。

 従姉の『上の兄』は、5年前、膵臓で亡くなった。

 従姉の家には、『上の兄』の嫁以外誰もいない。


 遠い、遠い日の夏だった。

 従姉は、何を願ったのかな?


 ―完―



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七夕に思う クライングフリーマン @dansan01

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