第9話 満足感

 我々の行いは間違っていた。

 夜空を見上げ、耳を傾けても我々の知る『旅人』の声は遠くなる一方だ。


 それもそうであろう。

 彼らは、我々を拒絶した。そこまでする行いをしたのであるから――。


 しかし、孤独ではないことをようやく理解した。

 その答えは宇宙の彼方でもなく、我々のすぐ側……顕微鏡でしか見えない世界に存在した。


 小さな細菌に寄生するバクテリオファージウイルス

 星の環境中に数百万種類と存在し、自分たちもDNAの操作に使っているありふれたウイルスだ。その昔から知られており、人工物としか思えない奇妙な形をしたことは確かであった。

 それの正体が、幾ばくかの空白期間を空けてようやく解読されたのだ。


 結論は……小さな探査機。


 それは驚きでもあり安堵てもあった。

 既存の生命体に寄生し、増殖し、更には生命の進化を助け、我々のような知的生命体を誕生させる。最終的な目的は、進化させた知的生命体が宇宙に興味をもち、旅立つことを望んでいる――。


 まさに我々が行ったことを、最小限のウイルスで行っているのではないか!


 そして、彼ら自身、自分たちに限界があることを分かっていたのだろう。世代交代という枠組みよりも、はるかに膨大な時間のかかる生命誕生から関わっている。何万、何億年の時が掛かっても宇宙探索を進める……これは意地であろうか?

 それに気が付き始めると、この探査機の種類は無数に存在することが分かった。つまり、『隣人』が無数にいたに違いない。痕跡がここにあるのだ。そのような行いが、無数に試みられたのだから――。


 その『隣人』に会いたい。


 だが、それは難しいかもしれない。

 今、我々が『旅人』たちをもって宇宙を探査した限りでは、『隣人』に直接接触できていない。彼らは、我々の尺度では到達困難な場所にいるかもしれない。


 いつか技術が進歩したら、彼らに会えるのだろうか?

 ひょっとしたら、もう滅んでしまったのであろうか?


 こうして解き明かすことのできる生命体に進化した我々には、少し解るかもしれない。

 自分たちが居たという証拠と、ひょっとしたら……と一部の望みでもあれば、途方もなく広い宇宙探査のひとつの希望となるであろう。


 我々もいつかは滅びる。だが、ひとつやりたいことができてきた。

 その『隣人』たちと同様の探査機を体内に宿すことは、我々にも簡単なことだ。


 ならば、我々も同じことをしよう。


 気がついてくれるだけでいいのだ。

 いつか空を見上げて、誰かがつぶやいてくれる。


 この夜空のどこかに『故郷がある』と――。




〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星空へのメッセージ 大月クマ @ohtsuki10112

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画