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 中3の夏、親に頼み込んで行った神楽高校の体験入学。そのオープニングセレモニーで隣になった彼はとても人懐っこい笑顔を浮かべながら、「宮瀬圭太みやせけいたです。よろしく!」と挨拶してくれた。

如月衣織きさらぎいおりです。』緊張して少しぶっきらぼうな言い方になってしまったけど、圭太くんはそんな私を笑ってくれた。


 セレモニーが終わったあと、それぞれの科の展示を見て回った。圭太くんはスポーツ科でサッカーを専攻したいらしく、サッカー場に一緒に行こう!と言われてついていった。

あんな笑顔をされちゃあ、断れないよなあ。


 私は球技がてんでダメだからコートの外から見ていたけど、ボールを蹴って高校生とシュート対決をしている圭太くんはほんとうにかっこよかった。


 スポーツをしている男子って2割増しでかっこいいと思いながら圭太くんをぼーっと見つめる。

 なんか世界が白っぽいなと気付いたつぎの瞬間には、視界が圭太くんで埋まっていた。


「ほんとうにごめん!大丈夫!?怪我はない?」と目の前でめちゃくちゃ慌てている圭太くん。状況を把握できずに混乱していると、すっ飛んできたサッカーのコーチらしき男性が、私の顔面にサッカーボールが直撃しそうになったのを圭太くんが受け止めてくれたと教えてくれた。


「きれいな如月さんの顔に傷でもつけたら僕明日から生きていけない。いったいいくら払わなきゃいけないの」という圭太くん。

『助けてくれてありがとう。お金なんかいらないし、そもそもそんなたいそうな顔じゃないよ。』と平静を装って返したけど、あまりに焦る圭太くんが面白くて笑いをおさえきれなくて思わず笑い声をあげてしまう。


「さっきはほんとうにごめん、怖かったよね」

『ううん、ぼーっとしてたから気付かなかった私も悪かったし、そもそも助けてくれてありがとうだよ』

「うーん、なんかお詫びしたいな」

『じゃあジュース奢ってほしい。オレンジジュース。』

「まじでまかせてほしい。世界で1番おいしいオレンジジュースを買ってきます」

と自販機に走っていく背中を見つめながら、跳ねる心臓を必死に押さえつけていた。


(私、絶対慶太くんのことを好きになった。)

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またいつか、貴方に逢いたい。 東雲紫苑 @windblass

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