たとえば、自分の町から出ていく誰かを見送るしかない日って
——人生の中で、いくつあっただろう。
『飛燕は冷たい海を越えて。』は、そんな記憶を丁寧に描いた物語だ。
あの頃の自分がどれだけ無力だったか、じわじわと思い出させてくる。
この小説、話の流れはとても静かで自然なのに、読み終えて振り返ると、最初の一行から最後の別れのシーンまで、まるで脚本家が緻密に伏線を張ったかのように、すべてが綺麗に繋がっている。
だからこそ、すごくもどかしい。
何度も言えたはずの言葉が、何度も言えないまま流れていく。
その沈黙が、やけにリアルで、読んでる自分まで言い訳を始めたくなる。
青春ものって、「勇気を出して一歩踏み出しました!」って終わりがちだけど、この話はもっと地に足がついている。
飛べなかったという現実をちゃんと描きながら、それでも「追いつく」と言って、自分の人生を選ぶ。
その不器用な決意に、ちゃんと物語としての芯がある。
でも——その決意すら、いつか失われるかもしれない。
そう思わせる矛盾や不安まで、この作品は内包している。
それがなんだか、ひどく優しくて、
読後もずっと、ちょっと泣きたくなる。