小祭楓の推理は止まらない
「改めまして。こんにちわ、小鹿くん。三年F組、
「…こんにちわ、小笠原さん。1年A組、
「もう、小笠原さんなんて…たしかに私は可愛くて可愛らしくて川遊びが大好きな女の子だけど、少し改まりすぎじゃないかな?ふふっ。」
…篝先輩の言っていたズレが分かった。
この人のことはうわさ程度しか聞いたことがないし会無なのだが、少なくとも
「…そんなにじっと見て、一目ぼれしちゃったかな?まぁ、私の美貌を生で見ちゃったらそうもなるよね~」
「…消子さん。」
「ん~?」
棚に寄りかかり、後ろで右手首を隠すように腕を組んでいる彼女は、柔らかく相槌を打つ。確かに一目ぼれしかけているが、圧倒的に。圧倒的に圧巻されているが、やはり彼女は今までの小笠原消子ではないのだと思う。消子さんではないのだと思う。
証拠はないのだが。
ならば別人なのだろうか?いや、そうじゃない。
「消子さん、
「あぁ、あの子ね。うん、
小野山田もとい、
勉強が得意で、応用が得意で、学習が得意で、反省が得意だが、
恋愛が不得意だったと言われている男。
このあと、説明がめんどくさくなりそうなため、失踪前の小笠原消子を『小笠原A』、現在の小笠原消子を『小笠原B』と呼称する。
去年の夏。中学3年だった小野山田は当時高校2年の小笠原Aに惚れ、体育館裏で告白。それから小笠原Aが失踪するまで、ほかの誰にも言わず交際を継続。
無事帰ってきた小笠原Bに帰ってきた翌日に体育館裏で振られ、関係終了。
「…ねぇ、小笠原さん。」
ここで小祭が会話に入って来た。手をまっすぐ上げ問う。
「芸能人の冬咲ロミオが髪型をツーブロックにしたの、いつでしたっけ。」
冬咲ロミオ。小祭とか…というか最近の女子高生のトレンドだ。面白いギャグとクールな顔立ちが人気な有名芸人。
「去年の7月22日だよ。」
「あ、みんな何か質問攻めしてるのか?私もやりたい!」
勉強中の篝先輩が突っ込んでくる。馬や鹿のように。馬鹿のように。
「私が数学のテストで最高得点取ったの、いつか覚えてるか消子?」
「一年生の夏、6月22日の期末テストで40点だったよね。」
篝先輩、数学で40点も取ったことあるのか!?
今年一番驚いたかもしれない。
「…消子さん、最近何か変わったこととか…」
「なんでそんなこと聞くのかな?」
圧がいきなり降りかかって来た。質問続きだったことを不審に思われたか?さっきまでお茶らけていた彼女から殺気が向かってきた。
「さっきから私の事探ってるよね。…聞きたいんだ、私がいなくなった時の事。」
「…はい。」
息を吐きながらゆっくりと俺の机に座り、右手をポケットに入れながら足を乗せた。正直めっちゃ指摘したかったが、この雰囲気でそれを言えるほど俺のメンタルは
「だから、何もなかったよ?ほんとに。もしかして、何かを期待してるのかな…?」
…
「覚えておいてよ、小鹿くん。人の過去を詮索すること。それは確かに周りから見たらかっこよく見えるよ。」
目を合わせ、目を刺し合わせて彼女は続ける。
「でも、君はかっこいいだけで、君がしていること自体は正しくない、正義じゃない。世の中で一番価値があるのはね、
結局彼女はすぐに帰っていった。圧と暗い雰囲気を残して。
「…正しくない。正義じゃない…か。」
「やっぱり、消子はもう消子じゃないんだ。」
篝先輩は机に突っ伏し黙る。伏し黙る。
「なぁ、小祭。なにかわかったか?」
小祭楓は推理する。点と点を線にしていく。静かに、まるで計算をするように机を指で弾きながら。彼女の美しい金色の瞳がじっとどこかを見つめる。
「ねぇ小鹿。」
「ん?」
「今日って何月何日?」
俺はカレンダーを見る。5月の3日。
「5月3日。土曜日。」
「小笠原消子が学校に再び来たのは?」
「え?えっと…」
「4月の11日。金曜、だいたい3週間前だ。」
「小野山田圭太郎との交際が終わったのはその翌日の4月11日土曜日。今からちょうど3週間前。さっき小笠原消子は小野山田圭太郎との交際が終わったのを2週間前って言った。ちょうど1週間ズレてる。あれだけ物事の日付を間違えなかった小笠原消子が。」
「…たまたまだろ?」
別に日付を間違えることなんてよくある。ほかの物事を覚えていたからと言って、別に全部の物事を正確に覚えていることはないだろう。
「いや、決めつける。やっと見つけた
止まらない、と小祭は言う。こうなった小祭はなかなか止まってくれない。
止まらない。小祭楓は。
小祭楓は、止まらない。
小祭楓は止まらない じゃじゃうまさん @JAJaUMaSAn
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