11/5 Sound of Silence

 肺の凍える空を閉め切って、適切に整えられた室温が、重く淀んだままに絡みついている。彼がいない、静寂ばかり響く病室で、雪の積もる音に思いを馳せる。脱力した体躯にはもはや起き上がる力もなく、アルミサッシで飾られた風景を眺めながら、私はずっと床に臥していた。

 真っ白のシーツが、私から奪った体温で私を暖める。手の甲に繋がった点滴が、私の生命を希釈する。で自由意志を奪われた私は、包帯と正しさでぐるぐる巻きの朝焼けを与えられた。未だ奥底に疼く心が、無力な右手を天井に伸ばして、果たしてそれは空を切り、柔らかな毛布に沈んでしまった。

 諦めた私がベッドに体を委ねると、醜さを閉じ込めていた喉に、小さなひびが割れてしまった。両手で首を押さえても、咳き込むようにが溢れ出すのに。掠れたそれは誰にも聞こえない儘、私はまた眠りに堕ちた。

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習作:断章 楓雪 空翠 @JadeSeele

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