習作:断章

楓雪 空翠

7/4 Enough on Numbness

 空虚な表情を浮かべた僕の顔が、分厚い硝子窓に映り込んでいる。その虚像を隔てて広がる、滲んだ水彩画のような星月夜を、ぼんやりと眺めていた。瞬きをするたび、深淵のような紺青が朝の眩さに染まっていく。――もうすぐ、夜が明ける。

 すっかり力の抜けた身体を動かし、彼女の前に向き直った。寝息の音はとても静かで、心音計にすら掻き消されてしまうほど、脆弱に浮かんでいた。彼女だけに聞こえるように、そっと名前を呼ぶ。何度も、何度も繰り返して。声にならない声が、無機質に響く機械音に吸い込まれる。微かに震える右手を差し出して、華奢な彼女の指に絡めると、仄かな、しかし確かな温かみを感じた。か細く脆いその脈拍が、僕の手に縋っているようで――その尊さに共鳴した僕の吐息は、静寂に染まった夜の空気に振動した。頼りない掌で握り締めたまま、僕はもう一度彼女の名を呼んだ。

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