第6話 覚醒、そして決意の刃
闇の王が放った魔力の奔流が、カイへと迫る。その圧倒的な力の前に、カイはなすすべもなく、ただ目を閉じていた。しかし、彼の心は、決して諦めてはいなかった。聖女を護るという、ただ一つの強い決意が、彼の心の奥底で燃え盛っていた。
その瞬間、カイの全身から、これまでにないほど強烈な光が噴き出した。それは、青白いオーラを超え、まるで純粋な生命そのものが輝くかのような、眩い光だった。闇の王の魔力の奔流が、その光に触れた途端、まるで霧のようにかき消されていく。
「な、なんだと!?」
闇の王が、驚愕の声を上げた。その巨大な身体が、わずかに後ずさりする。ルシウスやリリスをはじめとする魔族の幹部たちも、その光景に目を見開いていた。
光の中で、カイの身体がゆっくりと宙に浮き上がっていく。彼の全身には、複雑な光の紋様が刻まれ、その瞳は、宇宙の星々を宿したかのように輝いていた。
「……これが、生命の力……」
カイの声は、もはや少年のそれではなく、深淵なる力が宿った、神聖な響きを持っていた。彼の意識は、世界の根源と繋がったかのような、途方もない感覚に包まれていた。
「闇の王……貴様を、聖女様に、指一本触れさせはしない!」
カイは、静かに剣を構えた。その剣は、もはや鋼鉄の剣ではなく、光そのものでできたかのように輝いている。しかし、それはまだ彼の意志に完全に従っているわけではなく、荒々しい波動を放っている。
闇の王は、カイのあまりの変化に、警戒の色を強めた。
「小僧……その力は、確かに厄介だ。だが、まだ完全に制御できておらぬようだな。その荒々しさ、所詮、覚醒したばかりの未熟な力で、この我を倒せると思っているのか?」
闇の王が、咆哮を上げた。その咆哮は、大聖堂全体を揺るがし、瓦礫がさらに崩れ落ちる。
カイは、その咆哮にも怯まず、静かに答えた。
「俺は、聖女の盾だ。この身が朽ち果てようとも、聖女様を護り抜く!」
カイは、地面を蹴り、闇の王へと向かって突進した。彼の速度は、もはや肉眼では捉えられないほどだ。残像を残しながら、闇の王の巨大な身体へと迫る。
闇の王は、その巨大な腕を振り下ろした。その一撃は、大地を砕くほどの力を持っている。しかし、カイは、その一撃を紙一重でかわし、闇の王の懐へと飛び込んだ。
光の剣が、闇の王の身体へと突き刺さる。ズズッ、という音と共に、漆黒の身体から、黒い煙が噴き出した。
「ぐおおおおおおっ!」
闇の王が、苦痛の叫びを上げた。その身体に、白い亀裂が走り始める。
「馬鹿な……この我に、傷を負わせたというのか……!?」ルシウスが、信じられないといった表情で呟いた。
リリスは、その光景を見て、妖艶な笑みを浮かべた。
「ふふふ……期待以上だわ、カイ。その力が、闇の王にどこまで通用するか、楽しみね」
闇の王は、傷口から漆黒の魔力を噴き出し、傷を塞ごうとする。しかし、カイの光の剣によって開けられた傷は、容易には塞がらない。
「小僧……貴様は、その力で、この我を倒せるとでも思っているのか?所詮、一人の人間の力など……」
闇の王が、さらに巨大な魔力の奔流を放った。それは、先ほどよりもさらに強く、広範囲にわたる攻撃だ。
カイは、その奔流を、光の剣で真っ向から受け止めた。光と闇がぶつかり合い、大聖堂全体が閃光に包まれる。
その時、闇の王の背後から、魔族の幹部たちが一斉にカイへと襲い掛かってきた。ルシウス、リリス、そして、新たに加わった複数の魔族の幹部たち。
「闇の王に、手を出すな!」ルシウスが、叫んだ。
カイは、闇の王の魔力の奔流を受け止めながら、魔族の幹部たちにも意識を向けた。
「多勢に無勢、ねぇ。流石のあなたも、全てを相手にするのは難しいでしょう?」リリスが、カイを嘲笑うかのように言った。
その瞬間、大聖堂の入り口から、新たな光が飛び込んできた。
「カイ殿!無事ですか!?」
エミリア隊長の声だ。彼女は、オスカー団長と共に、リリアーナを安全な場所へ避難させた後、再びこの地に戻ってきたのだ。彼女の傍らには、アメリアもいる。そして、その後ろには、包帯を巻いたリカルドと、レオナルド、セシル、そしてゼノン隊長の姿もあった。彼らは、まだ傷が癒えていないにも関わらず、カイを助けるために戻ってきたのだ。
「エミリア隊長!皆さん!なぜここに!?」カイは、驚きと、そして安堵の表情を浮かべた。
「馬鹿を言うな!聖女の盾が、一人で戦うなど、騎士として許されることではない!」オスカー団長が、怒鳴るように言った。
「貴様は、確かに無能で、得体の知れない力を持っている。だが、この神殿騎士団の一員であることに変わりはない!」ゼノン隊長が、複雑な表情でカイを見つめた。
「こんなところで死なれたら、後味が悪いからな!」リカルドが、悔しそうに顔を歪ませた。
「そうだ!聖女様は、お前を信じているんだぞ!」レオナルドが、珍しく真剣な表情で言った。
「せっかく聖女の盾になったんだから、死なないでよ!」セシルも、涙目で叫んだ。
カイの心に、温かい感情が込み上げてきた。彼らは、自分を信じて、助けに戻ってきてくれたのだ。
「皆さん……!」
カイの身体から放たれる光が、さらに強くなった。それは、仲間たちの存在が、彼の力を増幅させているかのようだった。彼の周囲を巡る光のオーラが、一瞬、人間の形を模した守護者のように膨れ上がる。
「聖女の盾は、俺一人じゃない!ここにいる全員が、聖女の盾だ!」
カイは、そう叫び、闇の王の魔力の奔流を、完全に打ち消した。
そして、闇の王と魔族の幹部たちに向かって、光の剣を構えた。
「行くぞ!みんな!」
「おおっ!」
オスカー団長、エミリア隊長、ゼノン隊長、リカルド、レオナルド、セシル、そして他の騎士たちが、一斉に闇の王と魔族の幹部たちへと斬りかかった。
カイは、その先陣を切って、闇の王へと向かう。彼の光の剣が、闇を切り裂き、閃光を放つ。
闇の王は、カイの進化に苛立ちを募らせていた。
「小賢しい!だが、所詮は人間の集団。我が闇の力の前には、無力だ!」
闇の王が、その巨大な拳を振り下ろした。その一撃は、まるで巨大な隕石が落下するかのような衝撃だ。
カイは、光の剣でその拳を受け止める。キン!という激しい金属音が響き渡り、大聖堂の地面がさらに深く陥没する。
「ぐっ……!」
カイの身体が、わずかに震える。闇の王の力は、やはり圧倒的だ。
その時、闇の王の背後から、エミリアが斬りかかった。彼女の剣が、闇の王の背中を狙う。
「ふん、無駄な抵抗を!」
闇の王は、振り返ることなく、漆黒の魔力を放った。エミリアは、咄嗟に回避したが、魔力の余波が彼女の身体を襲った。
「くっ!」エミリアは、大きく吹き飛ばされる。
「エミリア隊長!」カイは、思わず声を上げた。
その隙を狙って、ルシウスがカイの背後から迫る。漆黒の短剣が、カイの心臓めがけて突き出された。
「もらったぁ!」
その瞬間、カイの身体から、稲妻のような光が走った。光の剣が、ルシウスの短剣を弾き飛ばし、その勢いのまま、ルシウスの腕を斬り飛ばした。
「ぐおおおおおおおおっ!?」
ルシウスは、絶叫を上げた。片腕を失い、激しく後ずさりする。彼の身体から、黒い煙が激しく噴き出す。
「ルシウス!?」リリスが、驚愕の声を上げた。
「馬鹿な……このルシウスが……!?」闇の王が、憎悪のこもった目でカイを睨みつけた。
カイは、荒い息を整えながら、闇の王を見つめた。彼の全身から放たれる光は、さらに輝きを増していた。ルシウスを一撃で倒すほどの決定打ではないものの、彼を戦闘不能に追いやるには十分な一撃だった。
「聖女様と、みんなを護る。そのために、俺は、この力を手に入れたんだ!」
カイの覚悟が、闇の王に突き刺さる。闇の王は、自身の絶対的な優位性が崩れ去っていくのを感じていた。
「この力……貴様、一体何者だ……!?」
闇の王は、カイの存在を、脅威と認識し始めていた。
その時、大聖堂の天井が、さらに大量の瓦礫が崩れ落ちてきた。建物の崩壊が始まっている。
「総長!危険です!これ以上は!」オスカー団長が、レオニダス総長に叫んだ。
「……撤退だ!全軍、聖女様のもとへ!」レオニダス総長が、苦渋の決断を下した。
「逃がすか!」闇の王が、魔力の奔流を放ち、騎士たちの退路を塞ごうとする。
カイは、再び光の剣を構え、その魔力の奔流を打ち消した。
「みんな、急いで!」
カイは、ただ一人、闇の王の前に立ちはだかった。
「小僧……貴様、ここで死ぬつもりか?」闇の王が、冷酷な笑みを浮かべた。
「俺は、聖女の盾だ。最後まで、ここで、聖女様の道を護り抜く!」
カイは、覚悟を決めた瞳で、闇の王を見据えた。彼の身体から放たれる光は、闇の王の魔力に負けじと、さらに輝きを放っていた。
戦いは、まだ終わらない。
聖女の騎士は今日も血に塗れる ~無能と蔑まれた俺が、最強の聖女を護る盾となるまで~ 境界セン @boundary_line
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