それは紛れもなく、『歴史』の1ページとなっていた……

 異世界、というものの捉え方がとても面白かったです。

 主人公はとある「悪魔」から話を持ちかけられ、異世界へと行ってみることにする。
 現実世界で生きていても、ただ忙しさに振り回されるだけ。だから異世界に行って一旗あげようとする。そこは「未開」な状態だから、現代社会の知識があれば、きっと無双出来るに違いないと。

 だが、何か様子がおかしかった。

 冒険者の女性たちと知り合い、これから楽しい異世界ライフと思いきや、即座に見えてくる異世界ならではの問題。

 異世界の文化水準を考えたら、当然「起こりうる」はずの問題。「都合のいいファンタジー」ではなく、「人が住む世界」であるのなら、このような事態が起こるのは考えられうる。

 読んでいて「歴史」の息吹を感じました。現実世界でも、これまでに未開の状態では起こったこと。異文化や異民族と出会う中で起こってきたこと。

 「栄枯盛衰」や「諸行無常」。
 異世界で「無双」することができたとしても、そこには「権力」にまつわる難しさだって発生しうる。

 今回の主人公である「彼」の行きついた先を見て、歴史に詳しい方だったら何人かの名前を思い出すこともあるかもしれません。
 「殷」の紂王と妲己なんかも連想させられたり、他には「明」の建国者である洪武帝だとか、フランス革命を指揮したロベスピエール。またはウガンダのイディ・アミン。
 
 それぞれ末路は違っていても、人の住む世界で「力」を持つことが何をもたらすか。
 これまでの歴史の中で語られてきた「人間の業」みたいなもの。

 異世界ファンタジーに「歴史」や「人文」の感覚を盛り込むと、こんなに新鮮な風味を出すことができる。
 短編でありながら重厚な味わいを楽しむことのできる作品です。