第17話 再会のグラウンド

第17話 再会のグラウンド



「こんにちは、部屋探しをお願いしたいんですけど」


その声を聞いた瞬間、彼女は思わず顔を上げた。

目の前に立っていたのは、まさかの人物だった。


「……え? 西嶋くん……?」


「……え、もしかして……高梨? 高梨紗耶?」


彼——**西嶋健吾(にしじまけんご)**は、23歳。

中学時代、サッカー部のキャプテンとして校内外で人気だった男子。

紗耶にとっては、初めて「好き」と思った人だった。



健吾は、中学卒業後、全国屈指のサッカー強豪高校に進学。


しかし、高3の夏、合宿前夜に交通事故に遭い、選手生命を絶たれた。


「それからは普通に大学行って、今は商社で働いてた。法人営業。たまたま、取引先で聞いたんだ。地元で少年サッカーチーム作るって話を。……気づいたら“やらせてください”って言ってた」


「戻ってきたんだね、この街に」


「うん。あの日、夢が終わった気がしたけど……今は“もう一回ボールを蹴る場所”ができた気がする」



健吾が探しているのは、職場(グラウンド予定地)に近い、1LDKのアパート。


「子どもたちにとっての“休める場所”でいたいから、自分も静かに暮らせる所がいい」


そう話す彼のまなざしは、今でもまっすぐだった。


紗耶は内心の動揺を隠しながら、プロとして案内に徹した。


だが、別れ際——彼が言った。


「……高梨、あの頃、ちょっと気になってた。知ってた?」


「……ううん、全然。むしろ私、完全に片思いだったよ」


「マジか。じゃあ、今度はさ、俺の番だな」


「……え?」


「俺が追いかける番。今度は、逃げないでよ?」



数日後、健吾は静かな住宅地の角に建つ新築アパートを契約した。


引っ越しの日、紗耶は手続きの書類を届けたあと、そっと彼に言った。


「ここから、少年たちの未来が始まるんだね」


「いや、たぶんそれだけじゃない。俺の、もうひとつの夢も、ここから始まる」


彼はボールのように軽やかな笑顔で言った。


そしてふたりの視線は、かつてとは違うグラウンドに向けられていた。


次回:第18話「水音に、心ほどけて」

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