Day22 さみしい

 私は急いで電話をかけ直した。

 まさかあの小さな掌犬とハエトリグモに、電話をかけることができるとは思いもよらなかった。もしや家の中に第三者がいるのだろうか? だとしたらちょっと怖い。

 仮に家の中にいるのがあの二匹だけだったとして、どうやって彼らが受話器をあげ、電話番号をプッシュしたのかが気になるが、とりあえずそんなことは後だ。今はとにかく、掌犬とハエトリグモの安否を確認したい。

 五回コールしたところで、ガチャッと受話器の上がる音がした。

『……ワン!』

 掌犬だ! 昔はヒャンヒャンという気の抜けた声しか出せなかったのだが、ハエトリグモと仲良くなってからずいぶん強くなった。ワンという声にも張りがあり、私は掌犬の無事を確信した。

「掌犬かい!? よかった! ハエトリグモは!?」

『……フウゥーン?』

 意味深だ。でも悲しそうな声ではなかったので、きっと元気ではいるのだろう。電話口に出てこないのは、きっと声帯がないからだ。

 そのとき、コンコンコンと音が聞こえた。受話器を爪の先で叩くような音だった。

「もしかしてお前、ハエトリグモかい? そうなら一回叩いてくれる?」

 コン、と音が返ってきた。やっぱりハエトリグモも無事だ。私はほっと胸を撫で下ろした。

「ふたりとも無事でよかった。なんとか家を取返しに行くから、仲良くがんばるんだよ」

 コン、と帰って来た。頼もしい虫だ。

 掌犬とハエトリグモの存在を電話の向こうに確認したためか、急に胸がキュッと苦しくなった。さみしい。早く二匹に会いたい。

「今どの辺にいるかわかるかい?」

 試しに尋ねてみると、コンコンコココと音が続いた。聞いてはみたけどわからない……困っていると、足元をトントンと叩かれた。

 見ると、アシカが私を見上げていた。砂浜の古代文字を解読しようとしていたアシカたちのうちの一頭らしい。

「それはモールス信号ですよ。私が解読してさしあげましょう。もしもし、もう一度最初からお願いします」

 アシカはどこかからペンとメモ帳を取り出すと、一心不乱にペンを動かし始めた。私は困惑しつつ、とりあえずアシカの耳元にスマートフォンを近づけた。

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