Day21 海水浴

 海岸で焼菓子を食べている間に、周囲に人が増え始めた。皆水着を着て、浮輪やパラソルを持っている。

「あっ、こりゃいかん。海水浴客がこんなところまで来るとは」

 浮き輪売りが立ち上がったと同時に、華やかなビキニ姿の女性たちが「浮き輪見せて」と言いながら屋台を取り囲んだ。

 浮き輪売りは突然てんやわんやの書き入れ時となった。ドーナツ型からサメ型、さっき拾った二枚貝、それに幽霊までもが、目を白黒させながら売れていった。

「すみません、ちょっと待っててくださ……はいはい、いらっしゃいませ、そちら二千円です。はい、ありがとうございます。空気入れお貸ししますね」

 これでは出発どころではない。

 仕方がないので、海を眺めて待つことにした。私一人で焦って出発しても、きっと道に迷ってしまうだろう。

 それにしても浮き輪売りは忙しそうだ。海水浴客の群れが浜辺にいくつかの屋台を率いてきたので、浮き輪売りの分もあわせて食べ物や飲み物を買っておくことにした。

「すみません、500mlのお茶と焼きそばふたつずつ……」

 屋台のひとつに声をかけたとき、焼きそばの隣にモバイルバッテリーが並んでいることに気づいた。そういえば、スマートフォンの電源が切れたままだ。

「す、すみません! すぐに充電出来るやつありますか?」

 あった。

 さっそくスマートフォンに繋いで電源を入れると、メッセージや着信がいっぱい来ている。大体はリヤカーの友人だが、その中に一件、『自宅』という番号からの着信があった。

「あっ!」

 私は思わず声をあげた。この番号は、自宅の固定電話だ。

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