Day6 重ねる
公園を出て、子どもたちに教えられたとおり赤色の星が見える方にひたすら歩くと、ようやくしらはえ通りに到着した。
商店街だ。入り口には『この先歩行者天国 七月いっぱい』という看板が立てられ、どうやら今は七夕の装いである。街路樹は色とりどりの紙飾りをつけ、風に枝を揺らしている。ああ七夕まつりが近いのだな、と私は考える。
通りの左右には店がたくさん並んでいる。たい焼き、たこ焼き、三食のわたあめ、色とりどりの飴細工、金魚が泳ぐ巨大な水槽を店頭に置いている店もある。祭りの準備なのか、一年中夏祭りのようなラインナップの商店街なのか、私にはわからない。
山車はない。すでに通り過ぎたようだ。
とりあえず、近くにあったイカ焼きの屋台で焼き立てのやつをひとつ購入し、「山車を見ませんでしたか?」と尋ねた。
「山車ですか。昨日よそへ行きました」
頭に手ぬぐいを巻いた店主が答えた。「あと一日居座られたらどうしようかと思いましたよ。いやぁ、山車ってのはわがままですねぇ。曳き手が必要だと言って、この辺りの子どもたちをみんな連れてっちゃいましたからね」
「実はその山車、私の家をひっかけて行ったみたいなんです」
打ち明けると、店主は同情してくれる。「そりゃ大変ですねぇ」と言って、イカ焼きをもう一本サービスしてくれる。
「幸い財布や携帯なんかは持っているんですが、大抵のものは全部家の中で」
「ははぁ、それはますます大変でしょうねぇ」
と、またイカ焼きをサービスしてくれる。私は右手で一本を食べ、もう二本を左手に重ねて持つ。
「ありがとうございます。そういえばこのくらいの小さな犬と、よく働くハエトリグモもいたんですが、そいつらも一緒に持っていかれてしまって」
「まぁまぁ。それはますますお気の毒ですねぇ。ご心配でしょうに」
と、店主はまたイカ焼きをおまけしてくれる。
「ああ、ありがとうございます。どうもすみません」
私はイカ焼きをようやく一本食べ終える。まだ三本持っている。
「いかがでしたか? うちのイカ焼きは」
「ああ、どうも。美味しかったです」
「それはよござんした。じゃもう一本……」
「いやいや、もう十分です」
私は慌てて断った。「それより、山車がどこへ行ったか知りたいんですが……」
「はいはい。さて、どこへ行ったかなぁ。おおい」
と、となりのりんご飴屋に声をかける。「祭りの山車が通ってっただろ。どこへ行ったか知らないかい?」
「さて、どうだったかな……。そういえば決まった行先があったような気がするぞ。思い出すから待ってくれ」
と、頭にバンダナを巻いたりんご飴屋の店主が言う。「ところで、どうして山車を捜しておいでなんです?」
私はりんご飴屋の店主にも、山車を捜すことになった事情を説明した。持ち物やペットたちを失った話をするたび、りんご飴屋は私に同情し、つやつやした美しいりんご飴をひとつずつ持たせてくれた。
話を終えるころには、私はりんご飴を一本食べ終え、イカ焼きを三本、りんご飴を三本持っている。
「いやぁ、どうにも思い出せないねぇ……」
りんご飴屋は首を捻る。「近頃めっきり記憶力が弱くなって……こりゃ別の人に聞くのがいいですよ。おおい、ちょっと」
りんご飴屋の店主は、そのまた隣の大判焼き屋に声をかける。店先では、座布団くらいある巨大な大判焼がいくつも香ばしいにおいをさせており、私はつい及び腰になる。
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