Day5 三日月

 元の世界の老人にも礼を述べて、外に出た。夜の七時を回り、夏の長い日もさすがに落ちて夜になっている。

「しらはえ通りはどっちかな……」

 私は辺りを見渡した。しらはえ通りに行ったとて、もはや山車はそこにないかもしれない。とはいえ他に手がかりもないので、引き続き同じ場所を目指すことにする。

 耳を澄ますとやはり微かに祭囃子、そしてどこからか、カチャカチャという割れたガラスを片付けるような音が聞こえてきた。

 とにかく大きな通りに出ようとウロウロしていると、児童公園の前を通りかかった。滑り台の横に子どもが五人固まって座り込み、何か熱心にやっている様子である。もういい加減遅い時間なのに、令和の子どもたちは忙しいのだな……と思いながら通り過ぎようとすると、一人がぱっと振り返った。定規で線を引きながら描いたような顔をしていた。

「あっ、大人のひと! 手伝ってください!」

 キョロキョロしてみたが、どう見ても「大人のひと」というのは私しかいない。仕方がないので子どもたちに近づいてみた。

「あんまり頼れる大人じゃないけど、何を手伝ったらいいの?」

「これ持っててください。落ちちゃったので」

 と言いながら指さす先には地面があり、そこには全長二メートルほどの三日月が落ちている。下半分に大きな罅が入り、光も弱い。

「あの辺から落ちました」

 別の子どもが夜空を指さした。子どもたちは皆定規で描いたような顔をし、同じような甚平を着ているので、どうにも見分けがつかない。

 見上げてみると、確かに夜空の一部に星がなく、ぽっかりとスペースが空いているところがある。

「これ、こう持ってたらいいの?」

「はい」

 薄っぺらい三日月を斜めに立てかけるように持ってやった。子どもたちは手慣れた様子で、中にある小さな豆電球を取り換えたり、割れた表面に樹脂を流し込んだり、塗料を塗ったりと修復を進める。みるみるうちに三日月は回復し、空に浮かんでいても支障がない状態となった。

「ありがとうございました!」

 子どもたちは揃って頭を下げた。最近の子どもたちはハキハキしていてソツがないな……等と考えながら、「どういたしまして」とこちらも頭を下げた。

「ところで、夏祭りの山車を捜してるんだけど。君たち知らない?」

 子どもたちは顔を見合わせた。

「しらはえ通りじゃないですか?」

「しらはえ通りを東から西に行って、今ごろ田螺商店街かも」

 あれこれ話し合ってくれる。そのうち一人がこちらを向いて、

「とにかくしらはえ通りに行ったらいいと思います」

 と教えてくれた。やはり方針は間違っていないらしい。

「ぼくら、山車に出会わないように毎年ルート調べてるんで、たぶんまちがってないかと」

「山車にぶつかると、強引に曳き方にされちゃうんだよな。子どもは」

「大人のひとは大丈夫だと思います」

 曳き方にされると、一週間くらい解放されないらしい。ならばルートを調べる方にも力が入るだろう。よし、ここはやはり子どもたちを信じることにする。

「どうもありがとう。助かったよ」

 ちょうど喉が渇いたので、私は自販機へ走り、自分と五人にジュースを買ってきた。子どもたちは恐縮しながら受け取った。

 皆でベンチに座ってジュースを飲みながら、回復した三日月がふらふらと夜空へ昇っていくのを見守った。

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