Day2 風鈴

 お囃子はどこから聞こえてくるのか、よくわからない。よくわからないが、私にはもうひとつ別の音が聞こえていた。

 風鈴である。ちょうど二日前に、軒下に吊るしておいたのだ。そのチリンチリンと涼しげな音が、私を家へと導いてくれるはずである。

 時々立ち止まって耳を澄ます。風鈴の音は少しずつ大きくなっている。まさに私が今年買った風鈴と同じ音だと、私の中の「夏の気配を求める神経」が声をあげており、それを信じることにする。我が家の風鈴の音を聞き違えるほど、私は家に対して薄情ではない。借家だけど。

 立ち止まる。耳を澄ます。歩く。立ち止まる――繰り返していくうちに、風鈴の音はだんだん大きくなる。ところが行けども行けども、山車は見当たらない。相当大きな山車だろうから、そろそろ見えてきてもいいはずなのだが。

 とうとう「この角を曲がれば風鈴が見えるだろうなぁ」というところまでたどり着く。思い切ってブロック塀の角から顔を出すと、そこにいたのは山車ではなく、風鈴の屋台だった。

 脱力した。同じ音がするのは当たり前だ。だって、私はこの屋台で今年の風鈴を買ったのだから。

 屋台には色とりどりの風鈴が吊るされていたはずだが、あらかた売ってしまったらしい。もはや風鈴はたったひとつ、黄緑色に白い点々の入ったガラス製のものが下がっているだけだ。風鈴屋は顔を手ぬぐいで覆い、男か女か子供か年寄かよくわからない声で、

「いらんかね」

 と問うてくる。

「風鈴は間に合ってます。夏祭りの山車を見ませんでしたか?」

 風鈴売りは「見たけど、風鈴買ったら教えてあげる」と言う。したたかである。

 私は売れ残っていた風鈴を買うことにする。売れ残りだが、とても可愛らしい。わが軒下を占めているものにひけをとらない。

「山車なら、しらはえ通りを行くのを見たよ」

 と、真っ白な指をさして教えてくれる。私は腰のベルトに風鈴を着け、礼を述べてその場を去った。

 ふと気になって、途中で振り返った。風鈴屋は屋台と共にぐずぐずの黒いものになって、電柱の影の中に沈んでいくところだった。

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