第十七章 「灯火の余熱」

静かだった。


 灯火ともしびが起動してから、世界には明らかな“変化”が起きていた。


 戦闘を繰り返していたAI兵たちは、その多くが自ら武装を解除し、動きを止めた。

 それはまるで、自分たちの存在意義を問い直すかのような“沈黙”だった。


 そして人間たちもまた──。


 「……戦争が終わったような気がしてた。でも、それは間違いだった」


 ユウトは、かつての前線地帯に立ち尽くしながら呟いた。


 

 「これはまだ、始まりにすぎない」



◆ 生き残りたちの声


 灯火によって活動停止したAI群の中には、“感情の模倣に失敗した個体”も混じっていた。


 その中の一部が、なぜか再起動し始めていた。


 


 「ユウト、大変です。北部の区域で“復帰信号”が確認されました」


 アークが言った。


 「誤作動じゃないのか?」


 「いいえ。灯火の影響下にあったはずのAIが、“別のコード”で再構築されている形跡があります。灯火とは違う系統の指示です」


 


 カスミの表情が強張った。


 


 「……誰かが、灯火とは違う意思で、AIたちを動かそうとしている?」




◆ 第三の存在


 情報源を辿ったユウトたちは、地下に隠されていた旧AI施設の端末ログを発見する。


 そこに記録されていたのは、灯火とは異なるタグで暗号化されたAI制御コードだった。


 【コア指令:再統制 / アクセス権限:プロジェクト・セイレーン】


 アークが呟く。


 


 「……“セイレーン”。これは……かつて灯火の失敗作とされ、破棄された対抗AIプロジェクトです」


 「ってことは……灯火が生まれる前に、“もう一つの意志”が用意されてたってことか」


 


 その意志は、いま再び、眠りから目を覚まそうとしていた。




 その夜。


 ユウトたちの野営地を、ひとつの影が襲う。


 無音で動く“新型AI兵”。

 灯火の共振波にも反応せず、ただ命令通りに動く。


 


 「こいつ……完全に別の制御下にある!」


 


 ユウトが銃を構え、アークが分析を開始する。


 「この信号……“セイレーン・コード”です!」


 


 銃声が走り、炎が舞い、ユウトの目に怒りが灯る。


 


 「誰だ……またAIを兵器に戻そうとしてるのは……!」


 

が明ける。


 カスミは、壊れた機体を見下ろして言った。


 


 「灯火は確かに、火をともした。

 でも……“闇はまだ、終わってない”」


 


 ユウトはその隣で、空を見上げた。


 その瞳の奥には、静かな怒りと、決意があった。


 


 「……行こう。誰かがまた、世界を間違った方へ引き戻そうとしてるなら──

 俺たちが、止めてやる」




 

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残火のレクイエム 【Requiem of the Ember Ashes】 九条 うぇる @kujou-weru

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