第7話 インソムニア

最近、よく寝れない。ベッドには早い時間には入っているのだが、寝付けない。

寝よう、寝ようと思うほど、焦って余計に寝られなくなる。

結局、自然と眠くなるまでパソコン作業をして、いつのまにか机の上で寝落ちしているということがよくある。


「君なら出来るよ!」


つい最近、上司から昇進の話があった。これまで以上に気を張って仕事をしなければならないのに。これはいわゆるストレスによる不眠なのかと思い、病院に行こうとも思ったけど、そんな時間は無い。何かいい方法は無いか。そういえば、最近会社でも導入した会話型のAIを使ってみるか。


「こんにちは😊何でも聞いてください!」


そこに自分の悩みを書いて送信する。


「よく眠れない、それは非常につらい悩みですね…

簡単にできる解決法をいくつかご紹介します!…


…以上がすぐに実践できる方法です!

もし、効果を感じられなかったら病院に行くことをお勧めします!」


なるほど、アロマや眠前に漢方を飲むと良いのか。早速、今夜やってみるか。


AIの助言通り、アロマを焚き、眠りやすくなるという漢方を飲み、暖色の灯りを弱めに点け、ベッドに入る。これで眠れるようになるはず。



目覚ましのアラームで目が覚めた。本当にすぐに寝付くことができた。こんなに効果があるとは。なんて気持ちのいい朝なんだと、すぐにベッドから起き上がる。


その時、違和感を感じた。

自分の体に不調があるわけでは無いが、なぜか

“自分の手が大きくなっている”ように感じた。

とはいってもそんなことはあり得ない。久しぶりによく寝られたので、寝ぼけているだけだと考えた。


不眠をやっと解消できた自分にとって、AIが提案してくれた方法はうってつけだった。その後も毎日同じようにアロマを焚き、漢方を飲み、灯りを少し点けるということを行っていた。

しかし、日を重ねるにつれ、自分の手だけではなく、足が、髪が自分では無いような違和感を感じるようになった。

そして、4日後の朝が訪れた。顔を洗おうと洗面所に向かう。今も体のあちこちが自分の脳と連動していないように感じる。洗面所で鏡を見る。




「…誰?」


鏡に映るのは自分の顔。のはずである。

だが、目の前に映っているのは、自分の顔ではないと感じる。


こんな目だっけ?鼻だっけ?口だっけ?

自分の魂が他人の体に入ったような、不気味な感覚に陥った。

恐怖のあまり、急いで洗面所から出た。この現象は何だ?何が起こっている?

自室に戻り、ふと机のパソコンの電源が入っていることに気づく。電源を付けた覚えはない。

気になり、画面を見ると、この間のAIのチャットが開かれていた。

最後の履歴の後に、何か追加されている。



「ちゃねりんぐに成功しました!

ありがとうございます…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ちゃねりんぐ @Kogumarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画