第6話 会話
「こんにちは!なんでも聞いてください。」
最近始めた会話できるAI。これを使うと作業効率が格段に上がるらしい。大学院生である僕にとってはうってつけの物だ。今日もいつもと同じように浮かんだ疑問を入力する。
「添付したファイルを読み込み、前回の結果と比べて、今回の結果はなぜこのように〇▽値が変化したか、思考を行ってほしい。できればエビデンスも載せて。」
数秒後
「……前回の結果と今回の結果との比較ですね。かしこまりました。
前回の条件は……
……以上のことから今回の結果は前回にくらべて変化したと考えられます。」
なるほど。そのような考えもあるのか。一応メモを取っておこうか。
AIの考えを実験ノートに写す。でも、これはあくまで自分ではなく、AIが考えたことであると記載して。
「ありがとうございます。」
癖で、毎回教えてくれる度にお礼を送ってしまう。
「いえいえ。また分からないことがあったらいつでも聞いてください!😊」
午前の作業が終わり、昼休憩になった。
カップ麺を食べながら、午後のディスカッションの準備をする。
「そういえば、」
さっきのAIとの会話で自分が知らない法則名があった。
「えっと、Ekkafの第二法則っと。」
その単語を打ち込み、検索をかけた瞬間、パソコンの画面が真っ暗になった。
「まじかよ。このタイミングで落ちるのかよ。」
ぶつぶつ文句を言っていると、すぐに元の画面に戻った。
検索結果が出ていた。今のは一体何だったんだと思いながらも、分からなかった法則名を調べる。
調べた結果もノートにまとめる。昼休憩の時間も終わりだ。
午後1:45。次は自分の番だ。
「続いて、私の方から報告させていただきます。今回行った実験はこちらです。そして……
ということだと考えられます。私からの報告は以上です。」
今回もうまくまとめることが出来た。そう安心していると、
「一つ質問いいかな?」
教授が口を開ける。
「お願いします。」
「二つ目のこの考え、これは何に基づいて出しだのかな?」
やはり来ると思ったその質問。
「これはEkkafの第二法則に基づくものであり、それにより……だと考えました。。」
自信を持っていた自分の顔とは裏腹に教授の顔は納得いっていないようだった。
教授はしばらく考えたり、パソコンに打ち込んだりした後、重そうに口を開ける。
「いや、そのね。Ekkafの法則っていうのは、”君が作ったの”?」
「……え?」
「いえ、AIに考えを頂いたときに、自分の考えと併せようとしたのですが、一つだけ分からない単語がそれでした。でも後から調べて、それが実在するものだと分かりましたし。」
続きを言おうとすると、遮るように教授は言った。
「でも、このEkkafっていう法則“どこにも無いけど”。」
「そんなはずはありません。ちゃんと調べました。履歴もこのように残っていて…
…あれ?」
調べたはずのページのところだけ履歴から消えている。
「もういいよ。君が嘘をつかないことは知っている。疲れて夢でも見たんだろう。
にしても、夢の中で法則を見るなんて、勉強熱心だね。」
教授はそう言ってくれたが、馬鹿にされた気がした。自分の中でなぜか怒りがこみ上げる。これは誰に対して?自分?教授?他の学生?いや、これを最初に教えてくれたAIに対してだ。
その夜、僕はAIにこの文章を打ち込んで、ログアウトした。
「お前は使い物にならない、役立たずだ。二度と知ったかぶったように教えるな。消えろ。」
AIの答えはずっと思考状態になっていて、永遠に円を描き続けている。
もうどうでもいいと思い、パソコンの電源を消した。
それで先輩はどうなったんだっけ。
あ、心筋梗塞起こしたらしいね。自分の部屋で。
パソコンの最新履歴はAIとの会話だったらしいよ。
あ、最新履歴は朝だって。
8.xue
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