テクネイト衰亡史<7>

 1966年4月16日 アメリカ合衆国 ワシントンD.C アレクサンドリア地区 バーグ-コンプレックス


 元々はアレクサンドリアの黒人街として知られるバーグ地区だったが、黒人たちがリベリアへと送られて以降再開発され、その再開発の目玉であるバーグ-コンプレックスに国民党本部はあった。

 

「なるほどね。つまりアブサロカやテクラホマの昇格と引き換えに最低でももう1つの新州をということかね?話にもならない」


 秘書の言葉に現大統領ホレス-ジェレマイア-ヴォーリスは呆れながらそう言った。


「愛国党は自分たちの支持者の少ない両準州の昇格を歓迎していませんし、やはりここは妥協するしかないのでは」

「そうは言うがね。だからと言って愛国党支持者の多いカリフォルニア北部とオレゴン南部を分離して新州を創設するなどと…やはり認められんよ」

「しかし、人口移動によって人口は着実に増えていますし、また、そうした移動によって西海岸の支持傾向が変わることだって考えられます。それに公約を果たすことができるということを考えれば…」

「必要だといいたいのかね。良いだろう。その西部戦略に乗ろうじゃないか」


 中間選挙を控えるヴォーリスには成果が必要だった。2年前の大統領選挙こそ愛国党候補を破っての勝利を収めたもののその差は僅差であり、そのことから次の中間選挙で愛国党が躍進すればヴォーリス政権ひいては国民党政権が終わりかねないと危惧していた。


 実際、愛国党は旧極東はアメリカ資本の再進出した都市部を除けば、民兵組織や軍閥化した旧正規軍の衝突が日常茶飯事となるなど混沌とした地域となったことをあげて満蒙戦争を完全な失敗であったと批難していたし、一部の党員は五大湖、特にミシガン湖の放射能汚染にしても卑劣なイギリスの陰謀(実際にこれは事実だったが、当時は突飛な陰謀論として片付けられていた)の結果であり、国民党は断固とした対処をしない軟弱な政権だと批判していた。


 そうしたこともあり、愛国党と国民党の対立は深まるばかりだったが、一方で上院院内総務であり、愛国党内部に多大な影響力を持つエヴェレット-マッキンリー-ディルクセンはこれを取引の機会と考えて、アブサロカ、テクラホマの2つ準州の昇格を望むヴォーリスに対して、引き換えとして西部で従来から言われてきたカリフォルニア北部とオレゴン南部をまとめて分離させる新州創設を提案していた。


 テクノクラシー体制が全盛であった時には中央集権化に反する新州創設など考えられないことだったが、既にハワード-スコット率いる強硬なテクノクラートたちはほぼ失脚しており、テクノクラシーに好意的な友好国であるリベリアにおいて従来通り経済のみならず、政治や社会全体の統制といった広範な政策を実行するか、あるいはアメリカにおいておとなしく経済分野に縮小された役割をこなすかのどちらかとなっていた。


 驚いたことに愛国党指導部ですらこの傾向を容認していた。


 本人はルイジアナ州知事以上の地位には決してつかなかったが、カリスマと非常に強い権力を持ち、ルイジアナの枢機卿と評されたヒューイ-ロングの息子であるラッセル-ビリュー-ロングが中心となって1960年の大統領選敗北以来党の改革に乗り出していた。


 愛国党は国民党の西部戦略に対抗して全アメリカ戦略を掲げ、逆にそれまで支持層を欠いていた北部やまた、反ユダヤ主義が蔓延る欧州諸国との差異を強調してそれまで政治に対して関心の薄かったユダヤ人等の取り込みを図るなど、未来に向けた地盤固めを積極的に行なっていた。


 そうした中ではかつての強硬な政権を想起させるスコットらのテクノクラートはあまり歓迎されなかったが、別のところからテクノクラートに対する注目が集まることになる。それはシカゴ、ミシガン湖の放射能汚染に端を発する環境保護運動だった。彼らは自然への生態工学的アプローチを好み、そのためにテクノクラシーの理論を再解釈した。彼らは自らをバイオ-テクノクラートと呼んだ。


 こうした愛国党の全アメリカ戦略とバイオ-テクノクラートが結びつくのにはそれなりの時間を要したがそれが切っ掛けで再び愛国党政権を誕生させることになるのだった。

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