第3話
第3話
私は、落ちた衝撃で、全身痺れるような痛みはあっても、幸運なことに骨はどこも折れてはいないことに安堵した。
おそろおそろ頭をめぐらせた私は、今度は自分が落ちてきた穴を見上げる。
日光が穴から私の上に、燦々と差し込んでいた。
私の頭上の穴までは、かなりの距離がある。
さらに悪いことに、私はいつものように散策の間、誰一人すれ違うことがなかった。
私が叫んだとしても、見つけて貰う可能性は低い。
私は、不安からくる震えを振り払い、暗闇に目を凝らす。
暗い影のような壁が迫り、遠くでかすかに水の滴る音がきこえている。
私は、どうやら地下の洞窟のようなところへ落ちたらしいことに気づく。
不意に、自分が横たわっているのが、岩の上でも土の上でもないことを感じた。
私は、いちだんと蒼白になり、突然何も考えられなくなった。
落下の衝撃があまりにも大きかったので、私は着地したのは当然洞窟の堅い地面だと考えていた。
だが、私が下敷きにしているものは、確かに堅いものだが、冷たくなかった。
むしろ温かいので、私はごくりと生唾を呑み込む。
私は、安全を考えて微動だにしないまま、実際に見ることなしに、自分が何に横たわっているのか、判断しようと試みた。
私が尾骶骨押してみると、わずかにへこむ。
それは、土という感覚ではなく、明らかに生きているものだった。
私が動くべきどうか思案している間に、太陽が天頂近くになった。
眩しい日光が、私の落ちた場所を照らし出す。
私は、ありったけの勇気を振り絞って、無理やり自分の下を見て、絶句した。
「!」
私が落ちたのは、どう見ても男性の身体の上だった。
呆気としていたが、このままではいけないと、どうにかこうにか自分を落ち着かせる。
意を決した私は、ピクリとも動かない身体の上から、自分の上体をおそろおそろと起こしてみる。
私は、自分が跨っている胸の上に、両の手のひらを置いていることに気づき、慌てて手を引っ込める。
裸体ではなく、所属判別不明の墨色の装束を纏っている彼は、年齢不詳の見事な美貌の持ち主だった。
私は、あまりの状況に身体が硬直してしまい、思うように動けない。
その視線は、目の前の彼へ釘付けになっている。
腰まである、長くて綺麗な翡翠の髪。
透き通るような白蜜の肌だが、身体頑強で神々しいほど艶美な容姿だった。
私は、彼の顔色は悪くないが、まずは生死の有無を確かめてみる。
墨色の装束の上からでも感じられる頑強の胸板に、再度ゆっくりと自分の手を当ててみた。
温かく力強い鼓動を感じ、私は安堵の息を吐く。
完全に意識を失っているらしく、彼は身動き一つしなかった。
私は、視線を自分の頭上の穴に戻す。
何とか彼を起こして、自分自身を肩の上に乗せて貰ったとしても、穴の縁に到底届きそうにもないことに気づき、私は嘆息を吐いた。
渇愛される最下位乙女騎士だが、実は最強聖女候補で、自ら供物になり仲間を救いたい。 猫山みみ @nekoneko0622
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