きみと僕だけに許された52ヘルツの共鳴


友達のいないひとりぼっちの僕と、多くの友達に囲まれ疲れた人気者のきみ。
対照的な二人が探していたのは誰もいない静寂の場所――校舎の屋上という偶然の出会いから始まる、ひと夏の青春物語です。
特徴的なのは「孤独」という状態を「52ヘルツのクジラ」という独特のメタファーで表現している点です。
世界に一頭だけ52ヘルツの周波数で鳴くクジラが存在するのですが、その子の声は他のクジラには聞こえない波長域のため、群れることなくひとりぼっちなのだときみは教えてくれるのです。
孤独な自分にクジラの声を重ねてみることで、伝えたい思いや言葉を特別な相手にだけ音として響かせる――その絶妙なニュアンス感覚からお互いの心に共鳴するオリジナリティの美しさを感じます。
また、待ち合わせ場所は決まって屋上という舞台設定の妙味や、きみのことを絶対に好きになってはいけない約束の深意など、これらの興味が伏線と回収の仕掛けによって生み出される魅力も本作の醍醐味と言えるでしょう。
52ヘルツとなったきみの声を、世界一孤独なクジラの声として、読後感の余韻に響く切なくも儚い青春物語です。

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