52ヘルツの声

kanimaru。

第1話

 僕の人生の中で最も印象的だった少女は、今目の前で四肢をだらりと放って倒れている。意味不明な方向に曲がったその手足は不出来な人形みたいで、でも微笑を湛えているその顔は、熟練の職人が作ったみたいに美しかった。

 きみは動かない。動く気配もない。

 鮮烈で芸術的な赤がそこら中にはねている。僕の制服にも、少しだけ。

 普段はバカ騒ぎしか能がないような連中も、この時ばかりはじっと動かずに、遠巻きになってきみを見つめている。静謐な美術館で絵画を鑑賞するみたいに、見つめている。

 ――この時を望んでたの。

 きみが今にもそう言うのではないかと思った。

 事実、きみは常に静寂を探していた。誰もいない場所を探していた。

 ようやくそれが手に入ったというのに何も言わないきみを見て、僕は、ああ死んでるんだと気づいた。

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