Section_4_4c「図書委員みんなで」

## 8


「曽我さんも誘う?」


私が提案すると、木下くんが少し考えるような表情になった。


「曽我さんかー……来てくれるかな?」


「誘ってみればいいじゃない」


「そうだね。せっかくだから、図書委員みんなで」


図書委員みんな。


それは、いいアイデアだった。


最後の思い出作り——


とは言いたくないけれど——


でも、みんなで過ごす貴重な時間になることは確かだ。


「じゃあ、俺が企画してみる」


木下くんが張り切って言う。


「任せといて」


任せておいて。


木下くんなら、きっと楽しい企画を考えてくれるだろう。


そして、彩乃との距離も——


少しは縮められるかもしれない。


みんなが幸せになれる——


そんな時間になればいい。


## 9


その日の帰り道、私は航と二人で歩いていた。


「新しい図書室、どうでしたか?」


「とてもよかったです」


航が答える。


「前より、明るくて——開放感がありました」


開放感。


確かに、そうだった。


以前の図書室も素敵だったけれど——


新しい図書室は、より多くの人を歓迎してくれるような——


そんな雰囲気があった。


「でも……」


航が少し寂しそうな表情になる。


「少し、違う場所のような気もして」


違う場所。


私も、同じことを感じていた。


改修されて、確かに素敵になったけれど——


私たちが恋をした、あの図書室とは——


少し違う場所になってしまったような気がする。


「でも、本たちは同じですよね」


私が言うと、航がうなずいた。


「そうですね」


「私たちの思い出も——変わらずそこにある」


思い出。


初めて航を意識した日。


一緒にポップを作った日。


告白された日。


そして、本を通じてメッセージを交わした日。


全部、あの図書室での思い出だった。


外見は変わっても——


その思い出は、消えることがない。


「綾瀬さん」


「はい」


「僕が転校した後も——図書室を大切にしてください」


転校した後。


その言葉に、胸がきゅっと締め付けられる。


「航くんがいなくなっても——図書室は変わらずそこにありますからね」


「はい……」


航の声が、少し震えているような気がした。


「僕も——新しい学校で図書室を見つけたら——ここでの日々を思い出すと思います」


新しい学校の図書室。


航は、そこでも本を読むんだろう。


でも、私はもうそばにいない。


そう思うと——


とても寂しい気持ちになった。


## 10


家に着いて、別れ際に——


航が突然立ち止まった。


「綾瀬さん」


「何ですか?」


「今度の土曜日のお疲れ様会——楽しみにしています」


「私も」


「でも……」


航が言いよどむ。


「その前に——もう一度、二人だけで図書室にいる時間を作れませんか?」


二人だけで図書室にいる時間。


私も、同じことを考えていた。


みんなで過ごす時間も大切だけれど——


二人だけの時間も、やっぱり欲しい。


新しくなった図書室で——


私たちだけの、特別な時間を。


「明日の放課後はどうですか?」


「いいですね」


航が微笑む。


「約束です」


約束。


また一つ——


航との約束ができた。


短い時間しか残されていないけれど——


その分、一つ一つの約束が——


とても大切に思える。


明日の放課後。


新しい図書室で——


きっと、また新しい思い出ができる。


そう思うと——


今夜は眠れそうにない。


でも、それも——


恋をしているからこその、特別な夜。


ドキドキしながら——


明日を待とう。


## 11


その夜、私は自分の部屋で——


明日読む本を選んでいた。


航と一緒に読む本。


どれがいいだろう。


本棚を見回すと——


たくさんの候補がある。


恋愛小説、詩集、エッセイ。


どれも素敵だけれど——


きっと、内容よりも——


航と一緒に読むということの方が大切なんだと思う。


同じページを見つめて——


同じ言葉を心に刻む。


そんな時間が——


私にとっては何より貴重だった。


結局、『夜のピクニック』を選んだ。


私たちが初めて一緒に作業した時の本。


思い出の詰まった、特別な一冊。


この本と一緒なら——


きっと、素敵な時間が過ごせる。


明日が楽しみで——


なかなか眠りにつけなかった。


でも、それも——


幸せなことだった。


好きな人との約束を——


楽しみに待つ夜。


十七歳の私にとって——


それは何よりも甘い時間だった。


窓の外には——


春の訪れを告げる、優しい風が吹いている。


季節は巡り——


新しい始まりがやってくる。


でも、それは同時に——


お別れの季節でもある。


複雑な気持ちを抱えながら——


私は明日という日を待った。


新しい図書室で過ごす——


航との、大切な時間を。

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図書委員さまのヒミツの初恋 りねん翠 @rinensui

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