Section_4_4b「だから、こんなに居心地がいいんですね」

## 4


「皆さん、お疲れさまです」


司書の先生が現れた。


「新しい図書室は、いかがですか?」


「とても素敵です」


私が答えると、先生が嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。実は、レイアウトを考える時に——図書委員の皆さんの意見も参考にさせていただいたんです」


私たちの意見?


「以前、アンケートを取らせていただいたでしょう?」


ああ、そういえばそんなこともあった。


「『もう少し明るい雰囲気にしたい』とか——『ゆったりと読書できるスペースがほしい』とか」


確かに、そんなことを書いた覚えがある。


「それを参考に、今回の改修を行いました」


「だから、こんなに居心地がいいんですね」


航が感心したように言う。


「使う人の意見を取り入れてくださったから」


「その通りです」


先生がうなずく。


「図書室は、皆さんのものですから」


皆さんのもの。


確かに、そうだった。


私たちが毎日使う場所だから——


私たちの意見を聞いてくれたんだ。


そう思うと、この新しい図書室が——


より愛おしく感じられた。


## 5


「今日から、また委員会活動を再開します」


先生が資料を取り出す。


「久しぶりですが——よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


私たちが揃って答える。


久しぶりの委員会活動。


でも、すぐにいつものリズムを取り戻せた。


返却本の整理、新着図書の装備、書架の確認——


慣れ親しんだ作業を、三人で分担して進める。


新しい環境だけれど——


やることは変わらない。


むしろ、以前より効率よく作業ができるような気がした。


「新しい書架、使いやすいね」


木下くんが本を配架しながら言う。


「高さも、ちょうどいい感じ」


確かに、以前より少し低くなっていて——


上の段の本も取りやすくなっている。


「女子生徒のことも考えて、設計してもらったんです」


先生が説明してくれる。


「なるほど」


私も実際に使ってみると——


とても使いやすかった。


細かいところまで配慮されている。


そういう心遣いが——


とても嬉しい。


## 6


作業を終えて、私たちは新しい閲覧席に座ってみた。


窓際のソファは、思った以上に座り心地がよかった。


「ここで本を読んだら、気持ちよさそう」


木下くんが体を椅子に預ける。


「でも、昼寝しちゃいそう」


「それは駄目でしょ」


私が笑うと、木下くんもにやりと笑った。


「冗談だよ」


でも、確かに気持ちよさそうだった。


窓から差し込む光も、ちょうどいい明るさで——


読書をするには最適だと思う。


「綾瀬さん」


航が小さな声で私を呼んだ。


「今度、ここで一緒に本を読みませんか?」


一緒に本を読む。


それは、とても素敵な提案だった。


「いいですね」


私も小さな声で答える。


「どんな本を読みましょうか?」


「何でもいいです。綾瀬さんが選んでください」


私が選ぶ本。


航と一緒に読む本。


それを考えるだけで——


胸がドキドキしてくる。


どんな本がいいだろう。


恋愛小説?


それとも、詩集?


いや、もっと違う本がいいかもしれない。


私たちが初めて一緒に作業した——


あの『夜のピクニック』とか。


あの本なら——


きっと、特別な時間になる。


## 7


「あのさ」


木下くんが急に口を開いた。


「今度の土曜日——みんなでお疲れ様会やらない?」


お疲れ様会。


以前にも話していた企画だ。


「図書室の改修も終わったし——記念にさ」


記念。


確かに、それはいいアイデアかもしれない。


「どこでやるの?」


「駅前のカラオケボックスでも借りて——お菓子持ち寄りで」


カラオケボックス。


意外な場所だった。


「でも、みんな歌うの好きかな?」


「歌わなくても、おしゃべりするだけでもいいじゃん」


確かに、そうかもしれない。


個室なら、ゆっくり話もできるだろう。


「花村さんも誘うんでしょ?」


私が聞くと、木下くんが照れくさそうに笑った。


「まあ……そんなところかな」


やっぱり。


木下くんの狙いは、彩乃と過ごす時間を作ることだった。


「いいと思いますよ」


航が賛成する。


「久しぶりに、みんなで集まりましょう」


みんなで集まる。


それも、きっと楽しい時間になる。


でも、同時に——


少し複雑な気持ちもあった。


航と過ごせる時間は、もう残り少ない。


みんなで過ごすのも楽しいけれど——


二人だけの時間も、大切にしたい。


でも、きっと——


みんなと過ごすことで生まれる思い出も——


大切なものになるだろう。


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