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 拓海兄さんとピアノを弾きながら話をして遊んでいるうちに、いつの間にか15時になっていて、お手伝いさんがお茶の支度をしましたと声を掛けてくれた。俺は拓海兄さんと打ち解けて、彼の手を引き、リビングの応接セットに連れて行った。


「拓海君!ここに来て!お客さんが座る場所なんだ。僕は座れないんだけど、拓海君がいるから座れるんだ」

「そうなのか。ここに家の子供だっていうのに、自由にいられないんだな。危ない物は置いていないだろう」

「自由って何?」

「のんびりすることだ。ごろごろする。ゆっくりする。自分の時間を持つ。何をするのか自分で決められる」

「いいなあ。でも、僕にも自由ってあると思うよ。そうだ!この匂いは紅茶だよ。僕が淹れてあげる」


 お手伝いさんが用意してくれたのは紅茶だった。いつもなら母がティーポットからカップに注ぎ入れていた。今日は俺がする。さっそく俺はティーポットを手に取った。そして、紅茶を二つのカップに注ぎ入れようとした時に、手に熱さが伝わった。そこで紅茶の熱気で火傷をしたようになり、ガチャンと落としてしまった。


「圭一!」

「ごめんなさい!」

「見せてみろ!」


 拓海兄さんが俺の手を取った。そして、すぐにお手伝いさんが駆けつけた。拓海兄さんに謝っている。彼は構わないと答え、俺のことを抱き上げて、キッチンに向かった。手を冷やすためだ。


「圭一。もう少しの辛抱だ」

「僕……、僕……」

「いつも、ああいうときはママが紅茶をカップに注いでいたんだろう。だから、あの場所に行ってはいけないと言われていたんだな。俺が気を付けておくべきだった。ごめんな」

「拓海君は悪くないよ。わわわ、つめたい!」


 ジャーーーー。水道が出されて、俺の手が冷やされ始めた。拓海兄さんの手も水に当たっている。今日は12月10日であり、季節は冬だ。いくら室内は暖房が効かされているとはいえ、服の袖ごと水を掛けられて驚き、服を濡らしてしまったと思った。叱られてしまうと。しかし、拓海兄さんは自分の服が濡れるのを構わず、俺と一緒に手を冷やしてくれた。その間、彼の匂いが鼻をかすめて、安心していいのだと感じた。俺は生涯、この時の匂いを忘れない。

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