評価 刻む

無気力なすび

第✕話 シャキシャキ

 シャキシャキシャキ

 今回も私は切り刻む。

 ゴミ箱の前で切り刻む。


 シャキシャキシャキ

 親の期待に応えられなかったから。

 テストの出来が悪かったから。


 シャキシャキシャキ

 ハサミが奏でるこの音は、なんだか心地良い。

 他人から押し付けられた評価をバラバラにするこの音が、とても、とても、心地良い。


 シャキ……シャキ…

 こんな結果になっても、何も思わなくなってしまったのはいつからだっけ?

 優しい人になりたかった、頼られる人になりたかった。

 でも実際はこんなもんだ。


 周りの期待に応えられず、誰からも呆きられて、結果私にはなんにも無い。

 始めは苦しくて、辛かった。

 夜に涙していた回数はもう憶えてない。

 だから何度も願ってしまっていた。

 こんなにも苦しいなら、もう誰とも関わりたくないと。


 その結果が今の私。

 心がかじかんで、喜怒哀楽も上手く表現出来なくなって。

 だからこうして、今日も親に怒られたその足で成績表を切り刻む。


 友達が盛り上がる憧れのアイドルが解からない。

 女子が価値を見出すカワイイが解らない。

 学校の帰りに夜遅くまで街で遊び歩く同急性あの子達の楽しさが解らない。


 楽しいって何だっけ?

 嬉しいってどんなだっけ?

 こんなにも分からないだらけなのに、知ろうとも、思い出そうともしないから私はこんななのかな……。


 ……どれくらい経っただろう。

 他のゴミと混ざって、バラバラに虚しく横たわる成績表を眺めていたら、空がオレンジ色に染まっていた。


 なんとなく目に付いた成の一文字。

 成功の成。

 成長の成。

 今の私から欠けてしまった文字。


 知らず、私は自らの髪に触れる。

 分かってる、この思考はほんの気まぐれだ。

 小さい頃お母さんが褒めてくれて、それからずっと変えていないこの髪型をもう一度だけ褒めてもらえれば。

 何でもいいから褒められるという体験をもう一度だけ味わえたなら、また進み出しても良いのかな。


 深い意味は無くて、特に期待もしてないけれど、気軽に自室を出て、階段を降りて、リビングを掃除してるお母さんの方に向かう。


「ねえ、お母さん」


「んー」


「髪、どうかな?」

 私が少し頭を降ると、お母さんは手を止めて。


「何、髪切ったの?」


「いや、そういうわけじゃ無いんだけど…」

 私の返答にお母さんは掃除を再開して、呆れたように言葉を投げる。


「馬鹿な事言ってないでさっさと勉強なさい。このままだったら留年して卒業出来ないわよ」


「……はい」

 この日、私は初めて髪を短くした。



シャキ、シャキ、シャキ、シャキ、シャキ

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