ココリコ田中のための千秋
ぽんぽん丸
解せない
乗り換えのために私が電車を降りる時のことだった。
鉄道クセの強いアナウンス、車輪とブレーキと線路の摩擦音、慣性の鳴らす音。それだけではない。扉横のモニターは意味もなく私の視覚関心を惹いていたし、車内の人々はそれなりにおしゃべりをしていた。
私の鼓膜を、脳髄を捉えたのはただ1つ。
「ココリコ田中のための千秋」
確かにそう聞こえた。扉をくぐる時だった。振り返ると注意アナウンスと共に赤い扉が閉まってしまう。ガラス窓の向こうには若い女性が2人見えた。それほど混んでいなかったし、高くてリズムの早い会話からきっとあの2人のどちらかの発言だと私は直観する。ピンクの髪に四角いポーチみたいに小さい黒革の地雷カバンが意識に残る。
電車は当然進みだす。私は手を伸ばしてその人の肩を掴んで振りかえさせたいが、当然叶うはずがない。ピンク髪と地雷カバンだけが残像として残り、実態は環状線の外回りを進んでいく。
あるいは非常停止ボタンを押せば間に合ったのかもしれない。その顔を見ることになんの意味があるのだろうか?しかし私は見たほうがよいと感じている。
ココリコ田中のための千秋は、この世界に存在するのであろうか?遠藤とも離婚しているわけであるし、婚姻関係があるうちでもむしろ旦那の相方という間柄において成り立つだろうか?
もちろんガキ使で婚姻関係を頼りに笑いをとりに来ている時に、田中も一緒に出演しているのであればココリコ田中のための千秋は成り立つのかもしれない。だけどそれはすごく薄い、田中のためと言い切るにはあまりに薄い。
私はただただ、ココリコ田中のための千秋に囚われてしまう。
乗り換えのために12番ホームへ移動しなければならないことも忘れて、気付いた時には3つ向こうのホームから目的の電車が出発した。
私はやっと阻害された移動を再開する。最後にもう一度、さきほどの彼女がいたところを眺めて、ピンクと小さいカバンの残像を見た。
ココリコ田中のための千秋 ぽんぽん丸 @mukuponpon
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