最終話 帰還か幻か
大音量と共に列車が闇の中へ消えていった。
片桐修太はハッと我に帰ると、駅のホームに立っていた。
列車は去り、遠くなる列車の音が徐々に消え、駅は静寂に包まれた。
残されたのは彼一人だけ。
「……戻ってきたのか?」
しかし、違和感があった。
空気は妙に重く、時間が動いている気配がない。
片桐は慎重に周囲を見渡した。
電光掲示板は消えたまま、時計の針は止まったままだ。
人の気配がまるでない。
「これは……現実なのか?」
その疑問が頭をよぎった瞬間——
駅の奥にある改札の影が、わずかに揺れた。
片桐は息を詰める。
もう一人の自分が、そこに立っていた。
「お前は、どこへ帰る?」
囁きが響き、駅の静寂に溶け込んでいく。
片桐は改札へ向かって歩を進める。
しかし、影は微笑んだまま彼を見つめ続けている。
この先にあるものは、本当に出口なのか?
それとも、さらなる迷宮への入り口なのか——。
彼は理解した。
この場所こそが、彼の選択するべき終点なのだ。
片桐は震える手をゆっくりと上げ、扉の取っ手に触れた。
影の囁きがかすかに響く。
「お前は、本当に……戻れるのか?」
その言葉の意味を考える間もなく、扉が静かに開いた——。
光が視界を覆う。
次の瞬間、片桐は駅の外に立っていた。
しかし、その世界は以前と同じものなのか——それは誰にも分からなかった。
新宿地下0番線〜影に蝕まれた街〜 兒嶌柳大郎 @kojima_ryutaro
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