第2話 出動!オメガパトロール!

 町内の平和は俺が守る!


 オメガマン!出動!三丁目をオメガパトロールだ!


 今日も手製のヒーロースーツ。オメガスーツに身を包んだオメガマン。

 ビシィッ!とスキージャンプみたいな恰好をしてアパートの廊下で叫んでいると、隣の部屋の帰ってきたOLがスマフォ片手に嫌な顔をしてた。


「え?あ、うん。ほら、例の不審者。オメガマン。隣に住んでんだよね。

 オメガパトロールだ、とか叫びながら、廊下で変なポーズ取ってた。

 そう。なんか変なジャージ来ててさ。キモッ」


 オメガマンの頬を熱い涙がこぼれる。俺が守ろうとした人間とは、こんな醜い生き物だったのか。懐から手帳を取り出すオメガマン。





 オメガメモ!


 霊和七年○月×日 隣の女のバカにされる。

          怪人に襲われていても助けてやらないぞ。ブース。



 Ω手加減キック!ズドン。と部屋に入っていったクソ女の扉に蹴りをくれる。

 オメガマンの蹴りは、体重七十キロの空手茶帯くらいの威力があるので、ドアが軋んだ。

「なにしてやがんだ!!ヒーロー気取りのアホ!死ね!壊れたら弁償させるぞ!てめぇ!」ドアの中から怒鳴り声。

「怪人に襲われても、助けてやんねえからな!」

「てめえが怪人に喰われろ!誇大妄想狂のあほが!」

「クソ市民の誹謗中傷は、ヒーロー活動に付き物だ。しかし、日本の民度もアメコミ並みに落ちてきたわ」静かに呟いたオメガマン。

 誰に守られて平和を享受しているのか。理解なきクソ市民の怒鳴り声を背に、しかし、哀しみを背負いながらも正義は折れない。ブツブツと頭のおかしい危険人物みたいに設定を吐露しつつ「町内の平和を守るために出動だ!オメガパトロール!GO!」7800円で買ったオメガマンの愛車オメガモービル(ママチャリ)に跨り、オメガマンはポーズを付けて小さく叫んだ。(夜中だからね)



 何かに気づいたオメガマン。自転車を急停止し、路地裏へと踵を返す。路地裏入り口でポーズを取りながら叫んだ。

「オメガマン!参上!もう大丈夫だ!オメガマンが来た!」

 路地の奥にいた人影たちがビクッとしたように蠢いた。

「たっ、助けて!」陰から洩れる女性の声。

「オメガ動画撮影!」オメガマンはスマートフォンを操作した。

「お嬢さん。もう一度言って!さっきの台詞、もう一度!」

「えっと、たすけて」戸惑いながら、女性が言った。

「オメガマン!参上!もう大丈夫だ!オメガマンが来た!」


「やべぇな、どうする。ケンちゃん」

「例の変質者だろ?あのポーズ」

「あたまやべぇよ」

「やっちゃう?」

「でも、あいつ、凶悪犯〆てるべ?」

「殺人犯っても餓鬼だろ?俺ら三人だべ?」

「正面から行けば余裕っしょ」顔を合わせるDQNたち。猿の一種でありながらも、人類の相談すると言う高度な知性活動を模しているようだ。


「三人だと……手加減は出来んぞ?下手すると骨折位するからな」オメガマンがゆっくりと構え、そして戦いが始まり……






 三人組は結構、喧嘩慣れしていた。

「くら?調子に乗りおって。おおん?おおん?」

「すぞ?くら!?」破裂音の多いDQN語で威嚇の鳴き声を上げながら三匹のDQNが蹴りや拳を叩き込んでくる。 鼻血を出し、息を乱しながら、壁に寄りかかり、オメガマンは、囲んだ三人組を睨みつけている。

 一見、頭や急所への打撃を防ぐので精一杯に思えるが、オメガマンの燃える正義はけして負けない。

「タイ……ふべ!タイムリミットだ!」殴られながらも、格好良く宣告する。

「馬鹿め。私の奥義が発動する前に逃げればよかったものを」

「……ボロボロやんけ。おまえ」DQNが突っ込んだ。

「オメガ110番通報!」

「今さらさせると思ってんのか?おおん!」DQNが鳴いた。

「わたしは、頭の悪い漫画のキャラクターではない。すでに5分前には通報した」


 赤色灯が光り輝く、犯人たちが罵声を上げながら逃げ出し、警察官たちが駆け寄ってくる。「大丈夫かな?お嬢さん」オメガマンは下着姿の女性に歩み寄り、微笑みながら手を差し伸べる。そして……








「犯人確保ぉおおお!」タックルでオメガマンを引き倒した巡査が叫んだ。

「んああああああッ!?」



 配信コメント


    オメガマン、逮捕されてるやんけ(笑)


    おまわりさん。こいつです。


    ひでぇ。


    まあ、格好が完全変質者だからね。

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お隣ヒーロー オメガマン 猫弾正 @satou5472

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