お隣ヒーロー オメガマン

猫弾正

第1話 オメガマン!参上!

 オメガマン誕生の秘密を話そう。


 鈴木裕太ゆうたは転生者である。転生するに当たって幾らかの力を獲得しているが、無双Tueeeできるほどではない。常人より明確に上回っているが、武道をやっている人間や巨躯の持ち主には勝てない程度だ。いずれは究極の力に至る。それは見えているが、現時点ではたかが知れたものでしかない。将来的には兎も角、少なくとも今はまだ。


 いずれにせよ、裕太は特殊な力を所有しているが、問題が一つ。彼の生まれ落ちた前世によく似た転生先日本には、やはり超絶の力を持つ怪人やヴィランと称する者どもが蔓延っていたのだ。


 裕太ゆうたは考える。

 俺の力をより強大化させるには、戦う必要がある。

 

 だが、無闇に力を振るい、罪なき人々を傷つければ、ヒーローを名乗る者どもが放置してはおくまい。すると怪人どもか?

いや、此方も危険な連中だ。負けるかも知れない相手にヒーローとして戦うのも御免被る。そうした長期的視野と、慎重なまでの狡猾さが裕太ゆうたにはあった。


(……ここは妥協するか)


 危険がない程度の相手を適度にあしらいながら、人々の賞賛を得、社会に受け入れられるとしよう。それがベスト。


 そうしてご近所ヒーロー、オメガマンが誕生した。

 ご近所ヒーローとは、読んで字のごとく、ご近所のヒーローだ。まかり間違っても、大規模破壊する怪人やテロリストなどとは戦わない。


 また人数が多く、勢いに任せて人を殺しそうな暴走族や、強盗などとも戦わない。相手をするのは精々、迷惑をかける酔っ払いや、騒ぎ立てる集団。それも力士やレスラーのような体格は避けて、中肉中背のサラリーマンやイキった中高生。それも相手は三人までと決めている。


 そんな相手でも、時々殴られて、経験値は入ってくる。オメガマンの力は日々、進化し、強大になっているのだ。そしていずれは、何者をも粉砕する究極の力を得るのだ。すべての生命よ。震えて、その日を待つがいい。我こそはオメガ。究極の生命体なのだから!



 オメガ!出動!オメガパトロールだ!



 鈴木裕太の手加減無しの拳が、強盗犯の鼻骨を粉砕した。「ちっ、畜生!なんで近所のコンビニに行くだけで強盗に刺されるんだよ?!」脇腹を抑えながら、オメガマンは喚いた。ゴッサムシティみてぇな治安である。


 コンビニの床には、強盗に喉を切り裂かれたコンビニ店員が転がっている。この少年Aは、既に三人を殺して指名手配されてる凶悪犯だった。洒落にならねぇ。

「……い、いでえ」喚いていた鈴木裕太だが、周囲に偶々居合わせた人々の目が注がれていることに気づくと、キャラ付けを取り戻した。

 コンビニのガムテープを手に取って「オメガヒール!」叫んでから傷口に張り付けると、脂汗を流しながら立ち上がる。あと、千円札をレジに置いておく。


「大丈夫かな?お嬢さん!安心したまえ。オメガマンが来た!」腰に拳を当てて、ニコリと笑う。

「大丈夫かは、こっちのセリフだよ!唇が真っ青じゃない!」OLが叫んだ。

「ふっ、ヒーローは不死身なのさ」オメガマンはサムズアップしたが、拳が震えていた。傷と出血によるダメージは、現段階のオメガマンの治癒能力を上回っているようだ。

「鈴木さん!座ってて!今、救急車が来るから!」近所のおばさんだ。

「鈴木?誰の事だ!私はオメガマン!」

 こうしてはいられない。救急車が来たら、正体がばれてしまう。鈴木の脳裏は、そのことで一杯だった。

「こうしてはいられない!さらばだ!人々の助けを求める声が私を呼んでいる!オメガエスケープ!」

 よろめきながら、オメガマンは、コンビニから立ち去った。人の目があるところで変身を解き、人間、鈴木として手当てを受けなければ命が危ういだろう。


 戦え、オメガマン。究極の生命体に至るその日まで!



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