第11話 初のオフェンス会

夕暮れのキャンパスを、練習を終えた一年生たちが歩いていた。汗まみれの体には少し涼しい風が心地いい。


「おーい、翔。今日このまま飯行かね?」


いつものように軽い調子で駿が声をかけてきた。


「飯?」


「せっかく練習したんだ。たまには新歓でもない普通のメシ会しようぜ。できれば一年組でさ。チーム感も作りたいし」


駿は冗談交じりに言ったが、翔にはその提案が嬉しかった。


「……いいな、それ。行こう」


すぐに佐伯、中野、西園寺、本郷、高梨、そして早瀬にも声をかけた。だが守備組の数人は予定が合わず、結局集まったのはオフェンス組の佐伯・中野・駿・西園寺、そして翔の5人だった。


「じゃ、行こうぜ新人オフェンス会!」


駿の掛け声に全員が苦笑しながらついて行く。


店は大学近くの焼肉食べ放題。安いが学生向けで量だけは十分だ。炭火の上でジュウジュウと肉が焼け始めると、自然とテンションが上がっていく。


「やっぱ肉だな!練習終わりの腹減り具合にちょうどいい!」


佐伯が一番はしゃいでいた。巨体が動き回るだけでテーブルがわずかに揺れる。


「お前、練習のときよりもキビキビ動いてないか?」


駿が呆れ顔でツッコむと、佐伯は豪快に笑った。


「肉はベストなタイミングで食ってこそ、その美味しさを発揮するからな!!」


その一言に全員が吹き出した。


中野は黙々と肉を焼きながら、少し遅れて話し始める。


「……ランプレーのときの佐伯のブロック良い感じだと思う。」


「お、珍しく褒められたな俺」


佐伯が嬉しそうにニカっと笑う。


「でも中野って、昔から走るの得意だったの?」


翔が尋ねると、中野は少し間を置いて答えた。


「まあ、中学までは陸上やってた。ただ、走るだけってのに飽きてきて高校で何となくアメフト部入って、今に至るって感じ。」


そう呟く目は少しだけ遠くを見ていた。


「へぇ、、じゃあ中野は結構キャリアが長いんだね!俺、タイミングとかまだ良く分からないから教えてな!」


翔は少し距離を感じる中野に対してあえて気さくに話を返した。


そんな中、西園寺が静かに口を開く。


「僕は翔くんと同じ大学スタート組。実はチーム競技が苦手で、最初は悩みました」


「え?それでなんでアメフトに?」


「蹴る技術だけでなく、戦略や流れに関わるスペシャリストという役割があるのを知って。キッカーって面白いなと」


どこまでも冷静な語り口に、一同は感心したように頷いた。なるほど――西園寺は西園寺なりに、責任を引き受ける覚悟でここに来ているのだ。


一方で駿はずっと肉を焼きながら配って回っている。


「駿、お前も変わってるよな」


「え、どこが?」


「正直、お前は野球続けたほうがいいって思ってた。」


翔が少し申し訳なさそうに言うと、駿はニヤッと笑った。


「まあな。でも俺、翔とまた一緒にやりたかったし。まさか、アメフトになるとは思わなかったけど!あとは兄貴がアメフトやってるからちょいと気になってたんよねー」


「そういや兄貴さんって?高校時代一度も話してなかったよな」


「んー、まあね。兄貴は社会人のチームでTEやってる。ま、今はいろいろ教えてくれてるよ」


彼の気さくさの裏に何となく何かあるような気はしたが、これ以上は突っ込まなかった。


肉を食い尽くして一息ついた頃、佐伯がぽつりと呟いた。


「でもさ……やっぱ翔がQBになってくれて本当に助かったよ」


「え?」


「正直、今年はQB不在って噂も出てたからな。新人でできる奴が来なかったら、ウチのオフェンスは成立しなかったかもしれねえ」


中野も西園寺も、小さく頷いている。


「QBがいなきゃ、俺たちオフェンスは動けねえからな」


その言葉に、翔は少しだけ息を呑んだ。


(重いな……)


プレッシャーに感じそうになったが、駿が隣でポンと肩を叩く。


「あんましプレッシャーかけすぎないでくれよー?うちのエース様は案外ガラスのハートなの。割れ物注意やでー?」


駿の軽口で皆が笑う。

おかげで翔も気が楽になった。

(こういうところ、駿はいつも俺を助けてくれんだよな、、、)

目の前にいる仲間たちの顔を改めて見渡す。みんな真剣に、でも笑顔で、自分を迎え入れてくれている。


(俺は一人じゃない)


その実感が、じんわりと胸に広がっていった。



焼肉の煙が薄く揺れるテーブルの上で、新たな絆がゆっくりと、しかし確実に強まっていった。


BLUEPHOENIXの新人オフェンスチームは、今、小さな一歩を踏み出したばかりだ。

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