第20話

 幼い自分の夢をみていた。いつしかみることのなくなっていた、あの村の記憶。


 かつては幾夜もよみがえり、小さな胸を怯えさせた脅威。火と風と叫び。園で暮らすうちに薄れ、やがては埋もれていたそれに、千璃は数年ぶりに触れていた。


 今となれば、自分ではないほかの人間の物語のようだ。語りに聞くような悲しい話。


 琵琶の音とともに聞いたなら、単純に可哀想にと涙を流すかもしれない。その子どもが可哀想だと。


 二親を亡くすことなど珍しいものではなく、ありふれた出来事であると知ったこの奏園。


 時折、幸せの記憶を思うことはある。けれど彼らがいてくれたならこうであっただろうと、生活を想像することはしない。


 手に入らぬものは追わない。嘆いても仕方のないことを理解している。冷たい涙で取り戻せる過去はないことを、千璃はほかの子どもと共にここで学んだ。


 しかしぬくもりに満ちていた眼差しを、過去を思い、温かな涙を浮かべることはある。


 幸せであった日々に、その感情はむしろ喜びに近い。戦を起こした王弟を恨むこともしない。ただ宿命であったと思うだけ。


 負はとうに昇華している。時に散じて消えたのだ。


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