第19話
良い国で在りたい。気持ちは同じだと寛容に申し入れた昂鷲に対する、寛方の返事は否だった。
寧ろ、それは計画の推進力となってしまったのかもしれない。逆撫でという言葉もある。どう言おうと兄は王だ。その事実をより浮き彫りにしたものかもしれなかった。
倒して我こそ王たらん。我こそ王たるに相応しい。うまいやり方とは言えない、むしろ幼稚ですらある。しかし、そうして戦は始まった。
寛方勢は真王軍と名乗り、國観の州都である素由(そゆう)を王都と呼び始めた。
そうまで叛逆が明白となっては、そうしないわけにはいかない。王は軍を率いて出発する。そうしながらも何通もの書を送ったが、弟からの返答は一度もなかった。
新王都である素由を傷つけまいと、街門を堅く閉ざし、寛方勢は討って出てきた。
攻め寄せた王軍との競り合いに、付近のいくつもの村が呑まれて消えた。村と一口に言うが、それは土地、家、民までもを総じている。多くの民が巻き込まれ、弓に馬に炎に消えた。
南の街門に接するその村は、早くに燃えたうちの一つだった。村人はなにが起きているのか理解する間もなかっただろう。
長らく平和が続いていた土地であったことが、おかしなことだが不幸だった。対する術を持たなかったのだ。
焦土。崩れた家。
千璃は瓦礫の下で待っていた。初めは父母を、だんだんとなにとも知らぬものを。
自分を迎えに来てくれるなにか、という点では通じていた。幾日待ったものか知らない。
ひもじさや寂しさ、悲しみもやがて遠ざかり、――すべては静かに遠くなった。代わりに近付くものがある。
霧のようにいつの間にか忍び寄っていたそれに呑まれようとしたそのとき。
白い光になにもかもが消えた。千璃は大きな音を聞いた、と、思った。なにかを言う声も。声たるものを忘れかけていたので、ただ衝撃のように受けた。
眩しい。闇に慣れた目には光が痛い。差し出された手に、縋りつく。まだ動けるのだと幼いながらに驚いた。ふわりと体が浮く感覚があり、風を感じた。
空気。外の空気だ。
体が震える。嬉しいのだ。
「さぁ、もう」――
やっととらえた言葉。後ろに控えていた男が呼んだ。
コウジュ様、と。
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