第16話
ひとしきり笑い、遼灯はまた顔を沈ませた。しっかしなー、と雨を吹き飛ばして息をつき、
「なんとか、千璃の気を換えさせなきゃな」
「お珍しい。遼灯殿におかれましては随分と王の肩を持たれますこと」
「珍しいのは昂鷲の奴だ。あいつが何かを欲しがるのなんて、俺は初めて見た」
「それは欲しがらずとも手に落ちてくるからでございましょう。恵まれたお立場だからでございます」
だけどさ、と遼灯はつぶやく。
「それでも、欲しがったものなんだ」
言うなれば、代わりのものなどいくらでも落ちてくる、ということだ。
暮らしぶりを見れば久蒔の言うように、王は恵まれた立場にいる。
と言って贅沢三昧をしているわけではないが、衣食住は常に満たされているし、客足の心配をすることも、土に手を染めて天候を案ずることもない。
国治はあるいは、そのすべてをしているのだとも言える。
そして国の頂点に立つ人間なのだから当然のこと、民の誰よりも重い責を負っているのだからそれくらいは赦されるだろうとも。
現王は王となるべくして生まれ、そのように育てられた。
民には想像の追いつかぬほど広大な城に暮らし、良い着物を着、食べたいものをたらふく食べて良い。
剣も馬も最高のものが献ぜられたし、必要なくとも玉や細工物についてもそうだった。
そうも育てば、我儘放題の王とているだろう。手に入るが故に満たされることもなく、求め続ける生を生きる王も。
しかし昂鷲はその点おとなしいことにかけては意外なほどだった。逆に遼灯などは煮え切らなさを感じたほどである。
自分が昂鷲の立場にあれば、あれもこれももらっておくのにと、空師の修行中にある少年は思ってしまうのだった。
とだけ言えば出来た王のようだが、決して禁欲的に生きているわけでもない。つい先だっても三日ほど姿がないと思ったら、四日目未明に送還されてきた。
遊興区で遊んでいたところ揉め事を起こし、州警に捕まり牢に入っていたのだ。
後談として聞いた遼灯は大いに笑ったが、処置に当たった側仕にしてみればいいかげん笑い事ではない。
類のことは幾度も起きていたが、とうとう牢に入るとは。
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