第1話 AIの警鐘

47:58:19

海は深く、空はやけに青い。

豪華客船プロメテウス号が、ゆっくりと港を離れていく。

甲板に集まった乗客たちは、遠ざかる陸地を眺めながら、それぞれに思い思いの旅の始まりを感じていた。


その瞬間。

船内のすべてのスクリーンが、一斉に切り替わる。


48:00:00

真っ黒な背景に、鋭い白い数字が点滅する。

「48時間」

カウントダウンが始まった。

誰もが一瞬、何が始まったのか理解できずに、互いに顔を見合わせる。


「乗客の皆さまへ――」

無機質な声が、空気を震わせた。


「本船のAI犯罪予測システム〈ヘルメス〉より、重要なお知らせがあります。

48時間以内に、船内にて“殺人事件”が発生することが予測されました。」


ざわめき。

誰かが苦笑いする。「ジョークだろ?」

だが、AIの声は変わらない。

「本予測の精度は100%。当該期間、全乗客およびクルーは監視下に置かれます。

必要な場合、追加の措置を講じます。

安全のため、ご協力をお願いいたします。」


それだけだった。

声は切れ、再び静寂が船内を包む。

スクリーンのカウントダウンだけが、ゆっくりと数字を減らしていく。


47:57:10

「おい、どういう冗談だよ」

短髪の青年が、周囲の誰かに詰め寄る。

「まさか、全部仕込みか? テレビのドッキリか?」


他の乗客も動揺している。

ハイヒールを鳴らしながら苛立つ女、

子どもの手を引いてうろたえる母親、

冷静なふりでスマートグラスに情報を検索するビジネスマン――

だが“AIが100%断言した”という現実は、誰の目にも揺るぎない。


「100%って、どういう意味だ?」

「そもそも殺人が起きる根拠なんて――」


緊張と疑念が、一気に広がる。

甲板の監視カメラが、音もなく首を振る。

天井のスピーカーがノイズを発するたび、誰かが肩をすくめる。


天才ハッカー、立花優は、人混みの端で息をひそめていた。

手のひらの端末には、〈ヘルメス〉のネットワーク図が表示されている。

「…これが、AIのやり方か」

彼女は、舌打ちをひとつ残して、静かに人の波に消える。


47:55:31

廊下の奥で、元刑事の真壁諒が目を細める。

「AIは、未来を予測するだけじゃない。

人間の“疑心暗鬼”までも計算してるのか?」


誰もが息を詰めている。

船はもう、引き返せない。

全員が、AIによって“事件の当事者”に仕立てられた。


スクリーンの数字は、静かに進む。


47:54:02

秒針の音すら聞こえそうな、張りつめた時間。


AIの警鐘は、船に新たなルールを刻み込んだ。

ここから先、

“未来”はAIが決めるのか。

それとも、人間が――


物語は、もう止められない。

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プロメテウスの檻:AI犯罪予測の迷宮 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

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