誘拐
北 流亡
誘拐
桐島は口元を笑みで歪めた。
部下からのメールには、桐島の命令通り、日本が誇る大企業『龍ケ崎重工』を束ねる社長である男の娘の誘拐に成功したという報せが入っていた。
「龍ヶ崎晴義の娘か……」
桐島はグラスの氷を親指で回す。
龍ヶ崎晴義のプライベートは厳重なセキュリティで守られていた。経歴を知るものはほとんどおらず、その姿は重役クラスにしか見せないという徹底ぶりだ。
当然、家族の情報もほとんどなく、娘がいるという情報も、2年スパイを潜り込ませてようやく入手できた。
だが、計画は笑えるほど順調だった。ここまであっさり娘を確保出来るとは、思いもしてなかった。
徹底した秘密主義故に、晴義は警察に助けを求めることは出来ないだろう。娘を人質にすれば、際限なく身代金を出すに違いない。
しかし、桐島の目的は金ではなかった。現在開発中の鐵システムの情報こそが目的だった。それさえ入手できれば、将来的に国家予算単位の金を動かせるはずだ。
ドアがノックされる。カメラに、腹心の姿が映っている。桐島は手をかざす。短い電子音が鳴り、ロックが開いた。
「失礼します」
桐島は振り返る。部下の隣に、縛られた人間が立っていた。緑色のフリルドレスを着た全身に縄が巻き付いている。スカートはめくり上がっていて、股間に縄が強く食い込んでいた。苦痛と羞恥に身を捩り、目には涙を浮かべていた。
桐島はその姿を見て眉間に皺を寄せた。
「……誰だ。その女装したおっさんは」
「はい、龍ケ崎晴義です」
「……社長本人を誘拐したのはそれはそれですごいけどさ、俺がなんて命令を出したのか覚えてる?」
部下は小首を傾げた。
「命令通り『龍ヶ崎重工の社長である
誘拐 北 流亡 @gauge71almi
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