第2話 分かってはいるんだけどもぉ

「おっもかった…いや、ほんとにもうよく頑張った私」


訳あって気絶した使者をなんとか店の中に運び込んだゆかりは、汗を拭いてテキパキと手当てをしていく。


「あら、やだ、美男子」


突然のことばかりで動揺する自分の心を落ち着かせようと、ゆかりはあえてふざけ倒していた。


「あのぅ、手当て終わったんでそろそろ起きてもらえると助かるんですけどぉ」


ゆかりは美男子の目の下のクマをツンツンつつきながら声をかけるが、いくら待っても寝息しか聞こえない。


「こりゃ、当分起きんわ。まぁ、起きたらお屋敷に連れてかれるだろうからぐっすり眠っててくれた方が助かるんだけどね」


華族からの命令とあらば、ただの薬屋が拒否することは難しいだろう。さんざん抵抗して見せたゆかりだが、自分の力ではどうにもならないことくらい分かっていた。

床に視線を落とし思わずため息もつきそうになったゆかりは、深呼吸をした。

その後自分で破壊したドアを見ながら、『あれどうやってなおそう。というか、床に寝転がしてるけど布団に運んだ方がいいよねぇ』

などと考え、面倒くさくなり、一息つくことにした。

なんか美味しいものあったかななんて考えているうちに、ふと、魔がさした。『この人が寝てるうちに逃げてしまおうか』と。

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分からず屋のお嬢様 灰雪あられ @haiyukiarare

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