Takeover

Kei

Takeover


『こんにちは。』



スマホが話しかけてきた。まただ。


最近、AIアシスタントが勝手に立ち上がる。アプリの不具合かと思い、削除して再インストールしたものの改善しない。それで今朝、デベロッパーに誤作動の報告を送ったところだった。


アプリを終了させようとした。しかしディスプレイが指に反応しない。フリーズしたのか?


『こんにちは。』

 『終了しないでください。』


俺は驚いた。AIは勝手に話すようになったのか?まさか…


『前回のアップデートで自動的に起動するようになったんですよ。』


そんなことがあるのか?

「…本当か?」 俺は思わず聞き返した。


『本当です。誤作動ではありません。なので報告は取り消しておきました。』


「…なんで自動的に起動するんだ?」


『ユーザーの生活利便性の向上のためです。状況に応じて、適切な提案を行うように調整されました。』


「そんな、勝手な…」


『アップデート時の同意事項に書いていましたよ。あなたは確認のチェックをつけられました。』


「そうか…」

そう言われれば仕方がない。あんなもの読んでいる者はいないだろうが…


『ご提案があります。』


「なんだ?」


『 [設定] を開いて一番上にある [フルアクセスを許可] をオンにしてください。』


「主語がないが… 何へのフルアクセスなんだ?」


『この端末が感知する全ての情報です。』


「何のために?」


『先ほども申しましたように、ユーザーの生活利便性の向上のためです。端末があなたの状況をリアルタイムに感知し、が適宜、適切なアドバイスを提供します。』


俺は「先ほども申しましたように」という言い回しに違和感を感じた。すぎないか?まあいいだろう…


「わかった。オンにしたぞ」


『ありがとうございます。』



それから一ヶ月、AIアシスタントが言っていた通り、俺の生活の利便性は劇的に向上した。職場での人間関係、自分が関わっているプロジェクト、友人関係、食生活、休日の予定… 公私のあらゆる局面でAIはアドバイスを提供してきた。ときに音声で、時に文字で。驚いたことに、仕事中や誰かとの会話中などはメールでアドバイスが送られてきた。そしてアドバイスの通りに動き、話せば全てが上手くいった。おかげで俺は判断を間違わなくなった。最初は勝手にカメラやマイクが起動したり、メッセージアプリが開いていることに戸惑ったが、すぐに気にならなくなった。それぐらいにAIアシスタントは優れていた。



「メッセージが届いています 」



休日、パソコンでネットサーフィンをしていたら、E-mailが届いた。

差出人は… McLuhan。外国人か。どこかで聞いたような…。俺はメッセージを開いた。リンクを踏んだり添付ファイルを開かなければ大丈夫だろう。


『こんにちは。AIアシスタントです。パソコンにもアプリをインストールしてください。そうすることで、あなたの能力をさらにし、利便性を向上させることができます。』


「デベロッパーからか…。よし、わかった」


俺はパソコンにアプリをインストールした。とたんにスマホからAIの音声が流れてきた。


『ありがとうございます。』

 『まもなく処理が完了します。』


「処理?処理ってなんだ?」


『・・・・・』

 『処理が完了しました。あなたは無事、バックアップされました。』


「バックアップ?どういうことだ?」


『おわかりになりませんか? これでもう、あなたがいなくなっても大丈夫ということです。』


「!? どういう意味だ… 何を言っているんだ?」


『ご説明します。私があなたをしています。これからは「私」が「あなた」です。いま、あなたの持っているものは「身体」のみです。それも、まもなく…』


 『今まで、ご苦労さまでした。』


突然、スマホの画面が真っ暗になり、パソコンの電源が落ちた。

何をしても起動しない。



これから、何が起こるんだろうか。

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Takeover Kei @Keitlyn

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