エピローグ


 瞼を開くと別荘の寝室の天井が見えた。



 ベッドに仰向けに寝転がっているのは分かるけど、全身が酷く重くて、頭もすっきりとしない。



 昨夜わたしに一体何が——。



「ああ、動かないで」


 眉根を寄せて起き上がろうとした途端に聞こえてきた声。



 びくりと体を震わせて隣に目を遣ると、何故かそこに服を着ていないアッシュ・ベイローレル公爵がいる。



「な——」


「起き上がっちゃダメだよ、カミーリア嬢。せっかく一晩中ナカにたっぷり子種を注いだのに流れ出ちゃうじゃないか」


「――は……い?」


「結婚式の日取りについては、君の意識がもっとはっきりしてから決める事にしよう」


「な——にを」


「昨夜、君は僕と結婚すると言っただろう? 覚えていないのかい? 誓約書まで書いたじゃないか」


「そ、そんな——」


「美しい君をどうしたらずっと傍に置いておけるかと悩んでただけに、昨夜はいい機会だと思って」


「き、機会って——」


 全く記憶のない、理解出来ない状況に驚き体を動かした途端、僅かな痛みを感じた下半身から、ナニかが流れ出る感触。



 それが、「子種を注いだ」という言葉が偽りじゃないと知らしめてきた。



「カミーリア嬢。君が手に入れた薬は『催眠剤』ではないよ。あれは所謂いわゆる、理性をなくさせる薬だ。飲めば本能のまま行動するようになる。断っておくけどこの状況は、君が望んだ事でもあるからね? 僕が無理矢理抱いただなんて思わないでくれ。――ああ、それから。使用人を雇う際にはきちんと調べた方がいい。少なくとも、僕の息が掛かった人間を使用人にするなら、君が何をしようとしてるのか秘密を打ち明けるべきじゃないね。渡す予定のふたつのワイングラスを入れ替えるなんて容易く出来るのだから」


 そう言って、わたしの頭に手を伸ばし、髪を撫でるアッシュ・ベイローレル公爵は。



「僕と君の子供はきっとこの世のものとは思えないほど美しいだろうなあ」


 美しいその顔に、美しいものに対しての狂気じみた執着を感じさせる笑みを浮かべた。



—―嗚呼ああ



「君が知りたいベイローレルの秘密は、僕たちの子供が僕の跡を継ぐ時に教えてあげるよ」



—―この男はわたしごときが罠にかけられるような相手じゃない。





 危険な秘密を暴くには。 完

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危険な秘密を暴くには。 ユウ @wildbeast_yuu

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